魔都ガラ・ルーファ(四)
重苦しい鉛色の空、土埃が舞う地上で剣を打ち交わすのは『黄金の騎士』リアンさんと『猛牛』アイナさん。体格にも腕力にも技術にも優れる二人の剣戟は他者を圧倒します。ですが。
「その勇気は買おう、だがその程度で大切なものを守れると思うな!」
「くうっ!」
以前ガラ・ルーファの闘技会で見たように、いくらアイナさんが強くてもリアンさんに及ぶものではありません。丸太を両断するような打ち込みも、分厚い門扉を貫くような刺突も、完璧な防御に阻まれてリアンさんには届きません。
十合、二十合、何度打ち込んでもそれは変わりません。逆にリアンさんの反撃は的確にアイナさんを捉え、致命傷こそ避けているものの鎧に亀裂が走り、軍衣が裂け、そのたびに血が流れます。
「あんたさ。そんなに強いのに、頭だっていいのに、みんなから尊敬されてるのに、道を間違っちゃうこともあるんだね」
「道を誤ったのではない。他に道が無かっただけだ」
「そう思い込んじゃっただけだよ。年とって頑固になったんじゃないの?」
「何とでも言うが良い。私は私の道を
「それを頑固って言うんだよ!」
再び剣を打ち下ろすアイナさんの赤毛が額に貼りつき、呼吸は乱れ、肩が激しく上下しています。並みの兵士ほどの力もないエミーロ君はその背中を守るのに精一杯ですが、それでも黙ってはいられなくなったようです。
「格好悪いぜ、『黄金の騎士』!お前の言葉をお前が一番信じてないんだよ!」
「むう……!」
アイナさんの力よりも技よりも、エミーロ君の言葉がリアンさんを動揺させたようです。僅かに体捌きが乱れ、アイナさんに押し込まれ……それでもすぐに立て直してしまうあたり、明らかな力の差があるのでしょう。
「よかろう。騎士の何たるか、その剣をもって示してみよ!」
アイナさんに加えてエミーロ君もリアンさんに打ちかかりますが、それでも『黄金の騎士』は
「そんなものか!忠誠も信念も理想も、主君に
これは……戦いではありません。リアンさんがアイナさんとエミーロ君に向けている目はマエッセンと同じです。彼はいつでも二人を斬り捨てられるというのに、まるで騎士の心得を伝えているかのようです。
そして『黄金の騎士』が足止めされたことは、全体の戦況に影響を及ぼしたのです。
魔龍公ザイドフリードに忠誠を尽くそうという者などいないでしょうし、もともとリアンさん一人に頼り切っていた侯国軍です。そのリアンさんが動かないのでは戦えるはずもありません。数に押され、次第に劣勢になったオピテル侯国軍は十歩、二十歩と後退し、やがて波にさらわれるように崩れていきました。
こうしてただ一人残った『黄金の騎士』は、誰に負けることも無いまま捕らわれの身となったのです。
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