魔龍公アウラケス(五)

 あちこちから火の手が上がる闇の城ドルアロワ、目の前には魔龍イブリリス。なんとか間に合ったのは良いのですが、ここまで急いで飛んできたせいか闇の力ドルナがほとんど残っていません。もうすぐ闇の翼ドルアーラで空を飛ぶこともできなくなるでしょう。


「イブ、どうしてこんな事をするのですか?」


「知らなーい。パパが決めたんだもん」


「お父さんが決めたらそれに従うんですか?自分の考えは無いのですか?」


「あ?ロナちん、今あーしのことバカにした?ムカつくんですケド!」


「私だって怒ってます!今すぐ帰ってください!」


「ムカつくムカつく、あームカつく!死ね死ねマジ死ね!」


語彙ごいが少なすぎです!もっとお勉強してください!」




 口喧嘩までは良かったのですが、とうとう本当の喧嘩が始まってしまいました。イブは背中の羽で自由に空を舞いつつ青龍刀と足の蹴爪けづめ龍の吐息ドラゴンブレスなど多彩な攻撃を繰り出してきます。

 対する私は家宝の短剣が姿を変えた闇の翼ドルアーラを右手に持っているだけで、ほとんど攻撃の手段がありません。とうとうイブの尻尾をお腹に受けて地面に叩き落されてしまい、水桶を放り出してエミーロ君が駆け寄ってきました。


「おいロナ!大丈夫か!?立てるか?」


「だいじょぶです。うっ……」


 これでも私は人族ヒューメルよりもずっと生命力の強い魔貴族です。たいした怪我ではありません……が、闇の力ドルナを使い果たして倒れ込み、エミーロ君に抱きかかえられてしまいました。その胸と腕が意外とたくましくてちょっとドキドキしてしまったのは内緒です。


「ロナちん、小さい頃はあんなに可愛かったのに。やっぱ人族ヒューメルってサイテー!死ね死ねみんな死ね!」


「ロナ、下がってろ!」


 駄目です、という間もなくイブの青龍刀とエミーロ君の長剣が交差して火花を散らしました。ですが種族、力量、経験、武器、全てにおいてイブがまさっている上に空中と地上では勝負になりません。斬撃と蹴撃を何度も浴びてエミーロ君の体が削られていきます。衣服と皮膚を裂かれ血を流し、それでも彼は私を背中にかばい続けました。


「駄目ですエミーロ君、やめてください!」


「わかってる、俺じゃこいつに勝てねえ。だからって逃げ出すわけにいかねえんだ、お前だけは守らなきゃいけねえんだ!」


「あーうぜぇ!めんどくせえ!もういい、丸焼きにしちゃる!」


 イブが大きく息を吸い込みました。いけません、高熱の龍の吐息ドラゴンブレスをまともに受けては、身を守る鱗も無く生命力に劣る人族ヒューメルであるエミーロ君はひとたまりもないでしょう。もう迷っている暇はありません、私はエミーロ君の首筋に牙を突き立てました。


「し、失礼しましゅ!」




 身を焦がす炎、吹きつける熱風。もろ人族ヒューメルであれば形すら残らぬ龍の吐息ドラゴンブレスも、魔貴族たるこの身を焼き尽くすことは叶わぬ。


「【覚醒リベレーゼ闇の翼ドルアーラ】!」


 闇色の翼をひと振り、にわかに巻いた突風が炎を吹き払う。そのおもてに驚愕を浮かべるは魔龍の娘。浅慮せんりょ極まるこの愚行、親子ともども決してゆるさぬ。


「魔龍イブリリス!我が臣下を、城を傷つけたる罪、その身であがなえ!」

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