魔龍公アウラケス(四)

 まったくもう。魔龍公って奴、偉そうなくせにやる事せこいんだから。ロナがいない時に突然攻めてきて、ちょっと負けそうになったら今度は放火って。捕まえたら地面に埋めて顔だけ出して、踏んずけながら小一時間説教してやるわ。それにしても……


「ああもう!面倒ね!」


 いくら【水飛沫スプラッシュ】の魔法で火を消してもきりがない。

水飛沫スプラッシュ】は水を自由に操る魔法だけれど、何も無いところから水を作り出すわけじゃない。お城の裏にある井戸から水を吸い上げて、それを体の周りにまとわせながら炎が上がっている場所まで移動しなきゃいけない。それもすぐ龍人族ドラゴニュートが邪魔するものだから、ほんと大変。




「おい、水ならここにあるぞ!」


 下からエロガキの声。名前は忘れちゃったけど子分を三人連れて裏の井戸から水を汲み上げ、近くまで水桶をいくつも持ってきていた。


「ふん、エロガキにしてはやるじゃない。【水飛沫スプラッシュ】!」


 二階のカーテンから上がっている火を消して急旋回、すぐ後ろで振り回された尻尾に空を切らせる。振り返りざまの【光の矢ライトアロー】が直撃した龍人族ドラゴニュートが落ちていった。ふん、いいざまよ。


「おおい、助けてくれえ!」


 その声に地上を見下ろすと、エロガキ四人組が三匹の龍人族ドラゴニュートに追われていた。ちょっと見直してやったのに、すぐこれなんだから。


「貪欲なる火の精霊、我が魔素を喰らいその欲望を解き放て!【火球ファイアーボール】!」


 さすがアタシ。必殺の【火球ファイアーボール】が直撃して、エロガキどもを追い回していた龍人族ドラゴニュートが三匹まとめて火だるまになった。


「おっかねえな、あのクソガキ」


「なんか言った?」


 また無駄な会話の隙に近づいてきた龍人族ドラゴニュートを急旋回でかわし、【光の矢ライトアロー】の魔法で撃ち落とす。あいつらよりアタシのほうきの方が速いし魔力はまだ十分残っているけど、雑魚が数ばかり多くて参っちゃう。




「おい、気を付けろ!また来るぞ!」


「わかってるわよ!何匹来たって同じ……っ!?」


 でも今度の奴は違った。アタシの【光の矢ライトアロー】を青龍刀で斬り払い、すれ違いざまに龍の吐息ドラゴンブレス。なんとか回避したけど自慢のほうきの先っぽに火が付いちゃった!慌てて手ではたき消して向き直ると、どこかで見覚えのある奴だった。人型の体を覆う鱗に蝙蝠こうもりのような翼。


「アンタは!」


「誰?てか誰?人族ヒューメルなんて知らないんですケド」


 確かイブリリスって名前だったかしら、魔龍公の娘。速度スピードも力も他の龍人族ドラゴニュートとは段違いだ、これはアタシでも油断できない。まだ火が消えてない場所だってあるのに……


「もう!アタシは忙しいのよ、どっか行って!」


「それお願い?人族ヒューメルってバカなの?人にお願いするときはどうすんだっけ?」


「どうせ聞く気はないんでしょ。アンタを撃ち落としてからにするわ」


「じゃあ言わなきゃいいのに。やっぱ人族ヒューメルってバカ」


 口は悪いし性格も悪い、でもコイツ強い!少しでも速度スピードを緩めたら追いつかれちゃいそう、そしてあのパワーなら捕まったらおしまいだ。天才のアタシとしたことが、攻撃魔法を詠唱する余裕もなく逃げ回るだけなんて頭にくる。


「あれえ?あれだけ言っといて口だけ?逃げるだけ?恥ずかしくない?」


「くっ……【光の矢ライトアロー】!」


「あはははは!やっぱバーカ」


 つい苦し紛れに【光の矢ライトアロー】を使ってしまった。命中はしたものの致命傷にはならず、そのぶん距離を詰められた。へらへら笑いつつ振りかぶった青龍刀が上から落ちてくる……その顔が上空から舞い降りてきた何者かに蹴り飛ばされた。


「はあはあ……遅くなりました」


「ロナ!遅いじゃないの!」


「ロナちん、今あーしの顔蹴った?蹴ったっしょ?いくらロナちんでも許せないんですケド!」




 ふう、ようやく帰ってきたわね。あんな奴アタシだけでも勝てたけど、ここは弟子に譲ってあげるわ。アタシは火を消すのに精一杯だもの。

 そして……水を汲もうと向かったお城の裏手で、木の陰から様子をうかがっている奴を見つけた。陰気そうな顔、痩せすぎの体、顔を覆わんばかりの前髪、見間違いようがない。


「ザイドフリード!どうしてここに!」

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