ロナの四騎士(五)

 初夏の陽射しが闇の城ドルアロワを照らすこの日、私はみんなに集まってもらいました。これからの方針をお伝えするためです。


 五十日ほど前まではいくらお掃除しても血の匂いとほこりが取れなかった玉座の間も、今はみんなのおかげでぴかぴかです。薄汚れていた黒革の玉座も窓から差し込む陽射しに輝いていますが、なんだか偉そうなのでそこに座ったりはしません。




「ええと……みなさん、私、魔血伯ロナリーテ・レントはエルトリア王国にも、オピテル侯国にも属することを望みません。ですが人族ヒューメルさんの国と争うことも望みません。マエッセンとリゼとともに、ここで静かに暮らしたいと思います」


 広すぎる部屋で小さな私を囲んで、皆が黙って聞いています。



「私はお父さんとお母さんの思い出が残るこのお城を、みんなが大切に思っていたベン爺さんと、たくさんの眷属けんぞくが眠るこの場所を離れるわけにはいきません。ですが皆さんがこの城に残ればきっと大変な未来が待っています。魔龍公も私を許さないかもしれません、冒険者の方がまた私を倒しに来るかもしれません。でももし……もし、それでもここに残ろうという方がいるならば、また仲良くしてください」


 人に注目されるのも、お話するのもあまり得意ではありません。でも今は皆に私の気持ちを伝えなければなりません。



「みなさん、それぞれの夢があると思います。アイナさんは騎士に、フリエちゃんは大魔術師に、シャルナートさんは……賭博師ギャンブラーでしょうか? エミーロ君、レレンちゃん、サリアちゃん、ブーケちゃん、ポッケ君、ペリオ君、エマちゃん、ジェイル君、リリーちゃん、エラン君、皆がそれぞれの道を歩んでも、みなさんの人生を応援します。今まで仲良くしてくれてありがとうございました」


 何度も練習した長い台詞を言い終えると、ふう、と大きく息を吐き出しました。


 これで良いのです。もし誰も残ってくれなかったとしても寂しくはありません、慣れていますから。アイナさんが来るまではずっと一人だったのですから、元の生活に戻るだけです。




「ロナちゃん!」


「ぴゃい!」


「ちょっとこっち来て」


「ひゃ、ひゃい!」


「お姉ちゃん言ったよね。寂しいのも、悲しいのも、辛いのも、ごまかしちゃ駄目だって。嬉しいことも、楽しいことも、何でもないことも、みんなで分け合うんだって」


 なぜか怒ったようなアイナさんに軽々と抱え上げられて、黒光りする玉座に座らされました。




「あたしロナちゃんの騎士になる。ロナちゃんと皆を守る騎士になる!」


 私の前で片膝を着き、左手を胸に当て、騎士の礼をとるアイナさん。




「同じくシャルナート・エスターク、ロナリーテ様にこの剣を捧げます。お受け頂けましょうや?」


 アイナさんの横に並んで片膝を着き、見たこともない真剣な眼差まなざしを見せるシャルナートさん。




「なに勝手に面白そうなことしてんのよ!ロナはアタシの弟子なんだからね!」


 両手を腰に当て、なぜか胸を反らすフリエちゃん。




『我ら四騎士、ロナリーテ様に生涯の忠誠を誓うものでございます』


 慣れた動作で優雅にひざまずくマエッセン。




「俺も!」「私も!」「僕だって!」


 真似をして次々とひざまずく子供達。




「え?え?ど、どうしましょう?」


 私はどうしたら良いのかわからず、偉そうな玉座に座らされたまま固まってしまいました。




 ……こうして『闇の城ドルアロワ騎士団』は一人も欠けることなくこの城に残り、後に『ロナの四騎士』と呼ばれるアイナさん、シャルナートさん、フリエちゃん、マエッセンが顔を揃えたのです。

 吸血鬼が棲むとはとても思えない、強い陽射しが差し込むお城の中のことでした。

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