魔貴族の夜(三)

 人跡未踏の森の果て、熱風吹き付ける活火山。その大空洞に集うは魔大公アスラーム以下、三体の魔貴族。魔龍公アウラケス、鬼人候グラウケス、そしてこの私、魔血伯ロナリーテです。図体ずうたいばかりでかいおっさんが雁首がんくび揃えて子供を吊るし上げて、恥ずかしくないのかと思います。


「ひっく!人族ヒューメルさんと仲良くして、何が悪いってんれすか!この麦溜ウィスキーも!木杯コップも!椅子も!円卓テーブルも!ついでにその武器も服もパンツも!人族ヒューメルさんが作ったのを奪ったんれすよね。人族ヒューメルさんを滅ぼしたらこういう生活ができなくなるの、わかりましゅよね!恨みとか裏切りとか言う前に、感謝とかないんれすか!ありがとうって素直に言えないから、かわりの物を作れないから奪って、殺して、また恨まれて戦争するんれすよね!偉そうに人を責めるならこんなお茶じゃなくて、上等な麦酒エールとガーリック風味のポテトフライでも持ってきてくらさい!」




 静寂に包まれた大空洞に、ひっく、と私のしゃっくりの音だけが響きます。


「やっべ、ロナちんウケるー!」


 魔龍公ににらまれて口を押えたイブですが、それでも彼女の笑いと私のしゃっくりは止まりません。


「ふむ」


 顎に手の甲を当ててしばし考え込んでいた魔大公でしたが、やがて得心したように頷きました。


「我が魔族は文化水準において人族ヒューメルに大きく劣ることは事実。むやみに敵対するのではなく融和をもって当たり、それを利用することが肝要と、魔血伯は言うのだな?」


「そうれす!」


 ちょっと頭がふわふわしていて魔大公さんの言う事はよくわからなかったのですが、とりあえず良いお返事をしておきました。再び魔大公さんは考える姿勢に戻り、やがて声を発しました。


「おぬしの言い分はわかった。魔血伯ロナリーテよ、夢魔インキュバス殺害の罪は不問とする。ひとまず人族ヒューメルとの共存の件もおぬしに預ける、彼らとの融和が我らを利するものかどうか、百年もすればおのずと答えは出るであろう」


 魔龍公は肩を震わせて何か言いかけましたが、魔大公はそれをさえぎるように大きな片手を上げました。


麦酒エールはあるか?新たな魔血伯は麦溜ウィスキーよりも麦酒エールを所望のようだ」


 樽ごと運ばれ、なみなみと注がれる黄金色の液体。なぜか上機嫌の魔大公と鬼人侯に次々と麦酒エールを注がれ、間もなく私の記憶は途切れてしまいました。




 私が目覚めたのは翌日の昼、闇の城ドルアロワの二階にある私のお部屋でした。ここまで運んできてくれたイブはアイナさんとシャルナートさんにこう言ったそうです。


「いやーサイコー、ロナちんウケたわー。おとなしい子イジメたらこうなるってカンジ?」

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