魔貴族の夜(二)
やがて深い深い森が途切れ、茶色と灰色が織りなす岩場を越え、見えてきたのは雲を
「イブ、ここは……」
「覚えてる?あーしの家」
魔龍イブリリスに案内されて到着したのは、微かに記憶に残る場所でした。通称『龍の巣』、魔龍公アウラケスの居城です。居城と言っても建物があるわけではなく、明確にその範囲が決まっているわけでもなく、広くはこの活火山全体を意味します。
空を舞う龍人族からいくつもの興味の視線が突き刺さります。彼らは魔龍公アウラケスの
硫黄の匂いがする熱風が顔に吹きつけてきます、生命力の弱い
岩場の中に
向かって左側に座るのは均整の取れた長身に全身を覆う黒い鱗、背中には
向かって右側に座るのは巨大な身体に分厚い筋肉の鎧、赤い表皮に黒い剛毛、頭頂部には一本の角、鬼人候グラウケス。
そして中央、堂々たる体躯に隆々たる四肢、
みんな大きいです、怖いです。この人達に比べると私なんてひよこみたいなものです。尻尾を掴まれてあーんと美味しく食べられてしまいそうです、私に尻尾は無いのですが。ともかく挨拶を済ませ、いくら何でも大きすぎる椅子にちょこんと腰を下ろしました。
「みゃ、
やがて魔龍公アウラケスさんの開会宣言で『
「……以上のことから、魔血伯ロナリーテに対する処罰を求めるものであります」
魔龍公アウラケスさんは自分の配下であった
「魔血伯ロナリーテ、この事実に間違いはないか?」
「ひゃい……」
魔大公さんとは初めてお会いしましたが、この人怖いです。大きくて筋肉もりもりで声も低くて、いかにも魔族の長という迫力です。私の目の前に置かれたお茶がかたかたと震えるのは地面が
「魔血伯ロナリーテに要求する、共に
「えっ……?」
「末端とはいえ魔貴族を害した下郎、八つ裂きにして喰ろうてくれよう」
「そ、そんな……」
優しいアイナさん、たくさん食べるアイナさん、みんなが大好きなアイナさん。アイナさんは私を妹だと言ってくれました。魔大公さんと魔龍公さんがどんなに怖くても、私がひよこみたいに弱くても、絶対に渡すことはできません。
「あ、あの……」
「娘イブリリスによれば、魔血伯は
頑張って口を開こうとしたのですが、さらに追い詰められて頭の中がぐちゃぐちゃになってしまいました。目の中に涙がたまってきましたが、泣いたところで誰も助けてはくれません、黙っていてはいけません。今まで甘えてきたぶん、私がアイナさんを助けるのです。
よし、と覚悟を決め、目の前のお茶をこくりと飲み干しました。そしてびっくりしました。
喉が痛いです!胸が熱いです!これは本当にお茶だったのでしょうか!?木杯に僅かに残った
「ひっく……
「む?」
「アイナさんは
ふんすとお酒臭い鼻息を吐き出すと、魔龍公がずるりと椅子から滑り落ちそうになったのが見えました。
面白そうに眺める鬼人侯も、澄ました顔の魔大公も、どいつもこいつも
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