黄金の騎士と侯爵令嬢(四)
失礼、とぼそりと告げると、黒
急に中庭に影が差し、気温が下がったようにさえ思えます。アイナさんの肩の筋肉が盛り上がり、テーブルの下でごきりと音が聞こえました。もしかして拳を鳴らした音でしょうか。
「魔血伯ロナリーテ殿にご提案です。我がオピテル侯国の傘下に入られてはいかがですかな?」
……この人おかしいです。ほとんど見ず知らずの私に対して世間話も前置きも無く、いきなりこんな重要なお話を始めるなんて、いくら私が世間知らずの子供でも怪しいと思います。でも気味が悪くて怖くて息が詰まりそうで、声がうまく出てきません。
「え、えっと、その……」
「こちらにはその用意があります。ロナリーテ殿を伯爵家当主と認め、ルイエルを領地と致しましょう。そちらの方にも騎士の身分をご用意します、ロセリィ様もお喜びになるでしょう」
……一見良さそうなお話です。子供たちの居場所を守ることができて、アイナさんも騎士になれて、ロセリィちゃんとも親しくなれて。でも……理屈ではなく直感で、頭のどこかでこのお話はおかしいと感じています。
「ザイドフリード、今は楽しいお茶会の時間です。政治の話は別の機会にして
私はロセリィちゃんの声で我に返り、黒
「ごめんねロナちゃん、場所を変えましょう」
ロセリィちゃんは再び私の手を引いて、お城から少し離れた花畑に連れて来ました。
色とりどりのチューリップ、
「ロナちゃん、さっきのザイドフリードの話、受けちゃ駄目だからね」
ロセリィちゃんの目は真剣です。お人形さんのようなのは見た目だけで、動作からも表情からも元気と知性が溢れているかのようです。
「ロナちゃんと貴族のお友達になれるのは嬉しいけど、それだけじゃ済まないんだから」
彼の提案通りオピテル侯国の傘下に入れば、
それにあの魔術師は信用できない、とロセリィちゃんは言い切りました。今リアンさんが城を離れているのは近くの村で発生した魔法生物の討伐のためで、その情報を得てきたのも、リアンさんを討伐に向かわせるよう侯爵様に進言したのも彼だそうです。魔法生物を生み出したのもザイドフリードさんではないか、とまで言っていました。
私はロセリィちゃんが色々なことに気付き、考えを巡らせていることに驚きました。
この子は頭が良いだけでなく自分で考えて、何が正しいのか自分で判断して、そうありたい未来のために自分で行動しているのです。見た目は私とあまり変わらないくらいの子供で、年齢はずっと年下のはずなのに。私は急に自分が恥ずかしくなってきてしまいました。
「私、ロナちゃんにたくさん謝らなきゃいけないの。あなたのお父さんのこと、ルイエルの領主のこと、さっきのお話。こんなに迷惑をかけておいて図々しいけど、私はロナちゃんと友達になりたい。駄目かな」
「い、いいえ!ロセリィちゃんは何も悪くありません!こんなにたくさん考えて行動してすごいな、大人だなって思います。是非お友達になってください!」
「ありがとう。来年の豊穣祭、必ず一緒に行こうね」
「はい!約束です」
両手で握ったロセリィちゃんの手は小さくて温かくて、まだ子供の手でした。
でも……私達はこの約束を守るために、たくさんの努力をしなければならなかったのです。
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