黄金の騎士と侯爵令嬢(二)
『黄金の騎士』リアンさんとの再度の会見は、場所を改めて応接室。先程の『玉座の間』と違って対等の立場で、親しみやすい雰囲気を作ろうというシャルナートさんの考えです。
まずはオピテル侯からの
「委細承知しました。和睦を受け入れて頂き、有難く存じます」
一礼して大きな右手を差し出してきたリアンさんでしたが、私は両手を膝の上で握り締めたまま唇を噛んでいました。
とても失礼なことをしているのだとは思います、アイナさんもシャルナートさんも不思議そうにこちらを見ています。でもどうしても、この人に聞きたいことがあるのです。
「……あ、あの、リアンさん。お父さんと、魔血伯ロサーリオと戦ったというのは本当ですか?」
『黄金の騎士』さんは私の目を見ると右手を膝の上に戻し、姿勢を正しました。
「魔血伯ロサーリオ殿のこと、もちろん覚えております。当時私はまだ若く、血気盛んな騎士でした……」
三十年前の戦争では、
それでもやはり個々の魔族、特に魔貴族は強かったのだそうです。魔血伯ロサーリオの軍を湿地帯に追い詰めたはずのリアンさんの部隊も大きな被害を出し、二人は互いに負傷しつつ向かい合いました。そして……
「ロサーリオ殿を討ったのは確かに私です、ですが謝罪は致しません。彼は魔貴族の名に恥じぬ強者であり、互いに敬意を払い堂々と戦った結果、運良く私が生き残っただけのこと。
リアンさんの目に曇りは無く、その奥からも心の闇は感じ取れません。彼の言葉に嘘は無いのでしょう。
「お、お父さんの心臓を食べたというのは……」
「ロサーリオ殿の心臓は私がオピテル候に献上し、確かに食されました。それゆえ候は
「そうですか……正直に話してくれて、ありがとうございます」
私は握り締めていた右手を懸命に開いて差し出しましたが、たぶん震えていたと思います。それを握り返したリアンさんの手は分厚くて温かくて、年齢のためかがさついていました。
こうして会合を終えた私でしたが、しばらく応接椅子から立ち上がることができませんでした。アイナさんが心配そうに覗き込んできます。
「えへへ、大丈夫ですよ?辛くありません、慣れていますから」
大丈夫ではありませんでした。アイナさんが顔をくしゃくしゃにして泣きだしてしまったのです。
「お姉ちゃん、慣れちゃダメって言ったよね?辛いに決まってるじゃん、悲しいに決まってるじゃん。優しいお父さんだったんでしょ?」
「はい。よく覚えてはいませんけど、優しくて強くて……あれ?あれ?うええええ……」
この日は思いきり泣いたせいか、ずいぶんとよく眠れた気がします。少しお寝坊してしまい急いで向かった食堂では、アイナさんがお芋のスープを温め直していました。
「おはよ、ロナちゃん」
「おはようございます。えへへ」
ちょっと恥ずかしくなって照れ笑いをする私の前に、封書が差し出されました。
「リアンさんが帰りにこれを置いて行ったよ。ロナちゃんに渡してくれって」
蜜蝋に押された
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