黄金の騎士と侯爵令嬢(一)

 この日、闇の城ドルアロワにお客様が訪れました。


 事前に知らされてはいたのですが、間近で本物を見るとものすごい存在感です。

 二人の兵士さんを伴ったこの人はリアンさん。『黄金の騎士』と渾名あだなされる方で、オピテル侯国の上級騎士さんで……そして三十年前、私のお父さんを倒した人なのだそうです。




 獅子のたてがみのように波打つ黄金色の髪、金色で縁取られた白い鎧に白く輝く大剣。近くで見ると白髪が混じっていて、もしかすると五十歳を超えているかもしれませんが、鍛え抜かれた体は金属鎧でも隠しきれていないほどたくましいです。


 そのリアンさんを私は玉座に座って見下ろしています。シャルナートさんに言われたので渋々そうしているのですが、場違いなことこの上ありません。

 シャルナートさんはといえば、アイナさんと一緒に佩剣はいけんのまま私の左右に控えています。まるで側近の騎士様のようで、こちらは非常によく似合っています。


「オピテル侯国が騎士、リアンと申します。魔貴族ロナリーテ伯にお目通りが叶い恐悦至極きょうえつしごくにございます」


「よ、良い。お、おみょ、おみょてを上げよ」


 あんなに練習した台詞せりふなのに、緊張してやっぱり噛んでしまいました。舌が痛くて涙がこぼれそうになるのを必死に我慢します。


「こ、此度こたびは何用で参られたか」


「侯爵閣下の命にて和睦の使者として参りました。先日のルイエル領主の振舞い、非礼の極み。かの地を監督する者として謝罪申し上げます」


『黄金の騎士』とまで呼ばれる方がわざわざこの城を訪れた理由はこれでした。ルイエル村はオピテル侯爵が治める領地の一つで、その監督責任は侯爵様にあるのだそうです。侯爵様は一連の騒動における非を認め、ルイエル領主の更迭こうてつ、賠償金一千万ペルの支払い、闇の城ドルアロワの損傷個所修復を提案してきたのです。


 これに対して私は即答せず、リアンさんには別室で待機してもらうことにしました。何もかもシャルナートさんの指示通りです。




「ぷはぁ~疲れましたぁ」


「お疲れ様、ロナちゃん」


「ま、上出来だな」


 アイナさんが私の肩を揉み、シャルナートさんが頭をくしゃくしゃに撫でました。肩も頭もとても痛いです。


 事前に和睦の使者と聞いていたからではありますが、シャルナートさんに言わせれば「ほぼ予想通り」だそうです。理由は私が魔貴族だからだそうで、下手に事をこじらせてしまえば他の魔貴族を巻き込んで大事になるかもしれない、侯爵としてもそれだけは避けたいだろう、との事でした。

 ただそのシャルナートさんにしても賠償金の額は想定の二倍だったそうで、このお金だけで闇の城ドルアロワに住む全員が十年以上は暮らせてしまいます。


「良かったです。でも、そのお金をシャルナートさんに預けることだけはやめましょうね」


「うんうん、その通り」


「ちぇ、俺に貸してくれれば二倍にして返してやるのによ」


 私とアイナさんは怖い顔でにらみつけたものですが、さすがにシャルナートさんもこれは冗談だったようです。細くて白い指を顎に当ててしばし考え込み、そのままの姿勢で声を出しました。


「文句なしだ、ただ城の修復は断れ。奴らに城の構造を知られてしまうし、何か仕掛けを施されるかもしれねえ。侯爵の息がかかってない奴に頼んだ方がいい」


 こうして条件は整い、私達は再び『黄金の騎士』と向かい合うことになったのです。

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