魔術師フリエ・ショコラータ
天蓋付きの
すっかり力を使い果たしたのでしょう、フリエちゃんはそこで安らかな寝息を立てています。一時は悪夢に
「ううん、リーネ、サラ……アタシがみんな守るんだから……」
「だいじょうぶですよ、みんな無事です。ゆっくり休んでください」
小さく寝言を発したフリエちゃんですが、私のその声に再び夢の世界に戻っていきました。
リーネちゃんとサラちゃんとは誰なのでしょうか。この小さな魔女さんは一体何を守ろうとしているのでしょうか。どうしても気になった私は、いけない事とは知りつつも彼女の夢の世界を
「失礼しましゅ……」
……フリエちゃんはこの広大な森の近くにある小さな村で育ちました。ご両親は既に亡くなっていたのか、それとも他の事情によるものか、とにかく物心ついた頃には村に住む老魔術師さんの家で養われていました。
「リーネ!サラ!どう?これが魔法の力よ!」
「すっごーい!フリエちゃん、どうやってやるの?」
老魔術師さんは同じような境遇の孤児を集めて読み書きや生活の
「先生、どう?アタシの魔法、すっごいでしょ!」
「うむ。だが才のみでは人々に尊敬される魔術師にはなれぬぞ。多くを学び、人のために尽くさねばな」
「ぷーんだ!そんなことしなくても、すっごい大魔術師になるんだから!」
ですがある日、村が妖魔の群れに襲われました。妖魔というのは
彼らは老魔術師さんの力で撃退したのですが村は大きな被害を受け、フリエちゃんと特に仲が良かった年下の女の子達も亡くなってしまったのです。さらには老魔術師さんもその時の傷が元で息を引き取ってしまいました。
「先生、アタシどうしたらいいの?みんな、みんないなくなっちゃった……」
「フリエ、お前は強い子だ。魔法の天才だ。自分を褒めなさい、信じなさい。その力を正しく使えば必ずや良い友に……」
身寄りをなくしたフリエちゃんは一人前の魔術師になるべく魔法学校に入学することを決めるのですが、それも簡単ではありませんでした。学校に入るにも続けるにもたくさんのお金が必要で……時には魔法の力を使ってお金を盗むこともあったようです。血が少し
「先生ごめんなさい、このお金は後で必ず返すから。今は悪いことをしたって、どんな事をしたって卒業してやる。頑張れアタシ……」
その魔法学校でも、家柄、後ろ盾、お金、何も無いフリエちゃんはとても苦労したようです。
そして老魔術師とお友達のお墓に報告を済ませ、一人で旅立ったのです。
「先生、リーネ、サラ、これが卒業証書よ。アタシきっとすごい魔術師になるわ。そしたら……そしたら今度こそみんなを守ることができるんだから」
しかし魔術師の世界は家柄や血筋に大きく左右されるようです。優秀な成績で魔法学校を卒業したフリエちゃんでしたが、王国や貴族に仕えるような華やかな道は開かれていませんでした。だからとても魔術師の仕事とは思えない下働きや農作業まで掛け持ちしながら、ガラ・ルーファの町で冒険者の仕事をしていたのです。たった一人で、多くの人を救う大魔術師という夢を見続けながら。
「見てなさい、アタシは天才なんだから。先生に褒めてもらうんだから。もうアタシの目の前で誰も死なせないんだから……」
……フリエちゃんの夢の世界から戻った私の顔は、もう涙でぐちゃぐちゃになっていました。どれくらいぐちゃぐちゃかというと、目を覚ましたフリエちゃんがいきなり怒り出したくらいです。
「ちょっとロナ、何よその顔。人の
「うええええ~!だってぇ、フリエちゃあん!」
「なによ、泣き虫ね。こんなのすぐ治るんだから」
あまりの変な顔に今度は笑い出してしまったフリエちゃんが、私の髪を優しく撫でました。
夢の中を覗いてしまってごめんなさい。フリエちゃんは私が思っていたよりずっと強くて、大人で、すごい魔術師さんでした。
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