闇の城防衛戦(二)

 ルイエルから来た兵士さん達の攻勢が続く闇の城ドルアロワ


『玉座の間』に戻る前に子供達の大部屋に立ち寄ると、エミーロ君が驚いて剣の柄に手を掛けました。年長の彼は一人だけ護身用に剣を持たされていたのです。


「なんだ、ロナか。びっくりした」


「すみません、驚かせてしまって。大丈夫ですよ、アイナさん達が守ってくれますからね」


 不安そうに身を寄せ合う子供達を励ましたつもりだったのですが、私の言葉とは裏腹に硝子ガラス窓が微かに震え、裏門の方向から大きな音がしました。

 何か大きなものがぶつかったような、地震のような音です。女の子達の悲鳴が重なり、年少のエラン君が泣きそうになるのを必死にこらえています。


 裏門を守るのはフリエちゃんとマエッセン、それから熊のぬいぐるみのポンタです。もしや彼らの身に何かあったのでしょうか。


「ちょっと様子を見てきます。皆さんはここにいてください」


「俺も行く。毎日骸骨のおっさんに稽古けいこつけてもらってんだからな」


 エミーロ君はそう言いましたが、剣士としてはまだ半人前です。シャルナートさんにも「今のお前はただのガキだ。大人しくしてろ」と言われていました……私と同じように。

 でも、それだけに私には彼の気持ちがわかってしまいます。誰かが私達のために戦っているのに大人しく守られていることなど、できるはずがないのです。


「はい、行きましょう。一緒に!」


「おう!」


 冷たい通路の石床を蹴り、二人並んで駆け出しました。未熟な私達でもお役に立てることがあるはずです。




 エミーロ君と私が到着した頃には、裏門は大乱戦になっていました。三十人ほどはいる兵士さんの間をポンタが猛然と駆け回り、あたりは騒然としています。

 一人で門を守る骸骨騎士スクレットのマエッセンはこんな時でも格好良く、完璧な剣技で敵を寄せ付けません……が、フリエちゃんが見当たりません。


「マエッセン!フリエちゃんはどこですか!?」


 剣戟けんげきの最中だというのに私に向けて丁寧に一礼したマエッセンは、ちらりと視線を上に向けました。その先をたどると……


「ザイドフリード!どうしてアンタが来てるのよ!」


「ザイドフリード先生、だ。お前には魔術より先に、年長者に対する礼儀を教えるべきだったな」


 ほうきに乗って空を駆ける魔術師が二人、光の魔法を撃ち合っていました。正面から激突した光の矢が共に砕け散り、闇の城ドルアロワに降りそそぎます。これが夜であれば夜祭りの花火のように華やかな光景だったことでしょう。

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