闇の城騎士団

 シャルナートさんとフリエちゃんに助けられて無事に闇の城ドルアロワに帰って来た私ですが、少々落ち込んでしまいました。


 シャルナートさんの助言を聞かなかった私が悪いのですが、領主様が悪い人でおまけに少女嗜好ロリコンだったとわかったことで、『人族ヒューメルの皆さんと仲良くしたい』『誰でもちゃんとお話すればわかってくれる』などという考えが甘かったことを思い知らされたのです。




 そしてこの日、さらに悪いしらせがありました。『子供達をさらい血を吸う吸血鬼を退治する』と称してルイエル村の領主様が兵を集め、この城に向かわせたというのです。

 蝙蝠こうもりのピッピと魔術師のフリエちゃんが空から偵察したところ、確かに大勢の兵士さんが森の中を進んでいたそうです。


 これを受けて、闇の城ドルアロワでは食堂にて作戦会議が開かれました。他にも広いお部屋はあるのですが、玉座の間だとなんだか偉そうですし、大広間は広すぎて落ち着かないので、このくらいのお部屋が丁度良いのです。




「……というわけで、奴らにはちょっと痛い目を見てもらわなきゃならねえ」


 どうやら進行役は頭脳担当のシャルナートさんが務めるようです。大きな食卓テーブルを地図に見立てて迎撃の作戦を立てようというのですが、私にはまだわからない事があります。


「あの、私が子供達をさらって血を吸うというのは誤解ですよ?兵士さん達とお話しして帰ってもらえば良いのでは……」


 ですがシャルナートさんはあきれたような、アイナさんも困ったような表情を浮かべてしまいました。どうやら私の意見は的外れだったようです。


「まだわかんねえのか?子供をさらったとか吸血鬼を退治するとか、そんなもんは建前だ。奴の狙いはお前だ、もっとはっきり言えばお前の体と心臓だ。あの領主はただの少女嗜好ロリコンじゃねえ、魔貴族の力が欲しいんだよ」


 そうなのでしょうか。建前というのもよくわかりませんし、何が本当で何が嘘なのか、私にはわかりません。

 でも、もし本当に領主様の狙いが私ならば。


「あ、あの、では、みなさんご迷惑ではないのですか?領主様の欲しいものが私の心臓なら、みなさんは関係ありませんよね?私がいなくなれば良いのではありませんか?」




 そう言うと、今度はアイナさんが怒ったような顔になってしまいました。胸の前で太い腕を組んで足を開いて、まるで赤鬼のようです。ごめんなさい、と思わず口に出しそうになったのを慌てて引っ込めます。


「ロナちゃん、ここにいる皆のことを大切に思ってるよね?」


「は、はい。もちろん」


「皆もロナちゃんのことを大切に思ってるんだよ。ロナちゃんのことも、ロナちゃんが大切にしている場所も、大切にしている人達のことも守りたいと思ってる。このお城も、骸骨さんも、亡霊ちゃんも大切でしょう?」


「はい。でも私、魔貴族ですよ?一人でも戦えますし、実は皆さんよりずっと年上なのですよ?なのに守ってもらうなんて……」


「関係ないよ、そんなの。言ったでしょ?何でもアイナお姉ちゃんに頼っていいんだよって」


「いいか?お前はまだ子供だ。魔貴族だろうが何十年生きていようが、世間知らずの甘ったれたガキだ。そして俺らの、こいつらの友達ダチだ。自分を粗末にしてんじゃねえ」




 最後のシャルナートさんの言葉は乱暴なようでいて実は温かくて、お母さんの言葉を思い出させるものでした。ロナ、もっと自分を大事にしなさい、って。

 そうなのですね。私が皆のことを大切に思っているように、皆も私のことを大切に思ってくれているのです。それをようやく理解した時、今まで黙っていた骸骨騎士スクレットのマエッセンが私に向けて一礼しました。


『良いご友人を持たれましたな、ロナリーテ様。このマエッセン、今こそご主君の恩にむくいて見せましょうぞ』


「みんな、ロナちゃんのためにも、自分達のためにも絶対勝つよ!」


 アイナさんの号令に合わせて、小さな指、大きな拳骨げんこつ、むきだしの骨、半透明の掌、様々な手が突き上げられました。


 この瞬間、この小さな食堂で、後に言う『闇の城ドルアロワ騎士団』が誕生したのです。

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