囚われの吸血鬼(一)

 この日、ルイエル領主の使者と名乗る方が闇の城ドルアロワを訪れました。

 その方は護衛の兵士さんを両側に従え、一通の書状を私に手渡したのです。内容はこのようなものでした。




『古城の主に命じる。身分を証明する物を持参の上、単身で出頭されたし』




 中年で小太りの使者さんは、この城に吸血鬼が棲んでいるというのは本当か、村の子供数名を連れ去ったであろう、子供達が無事であれば即刻返還を要求する……と続けざまにまくし立て、こちらの返答を待たずにさっさと帰ってしまいました。


「ふーん。で、どうすんだ?まさか行くとか言わねえだろうな」


「ええと……」


 その時不在だったシャルナートさんの帰りを待って相談に乗ってもらうと、まずは私の考えを聞かせろとの事でした。


 確かにルイエル村から来た子供達はここに住んでいますが、連れ去ったというのは誤解です。これまでに出会った人族ヒューメルさんはみんな良い人でしたし、私が吸血鬼だと知っても怖がることはありませんでした。お話しすれば領主様もきっとわかってくれるでしょう。そうお伝えしたところ……


「甘ぇな、クッソ甘ぇ。『みんな良い人』とか、ガキかてめえは」


「で、でも、ちゃんとお話しないと、みんな連れて行かれてしまいます。せっかくお友達になれたのに……」


「だからガキだって言ってんだよ。お話とかお友達とか、甘ったれた言葉使ってんじゃねえ」


「だって、だって、私もみんなも、誰も悪い事してません。なのにどうして……」


「そういう問題じゃねえんだよ、脳みそお花畑かてめえ。あと、『でも』と『だって』はやめろ」


 私にはシャルナートさんの言っていることがわかりません。私は何も悪いことをしていませんし、子供達は自分の意思でここに来ました。なのにどうして怒られなければならないのでしょう。なんだか納得がいかなくて、いらいらして……私はちょっと意固地になってしまったかもしれません。


「……私、行きます。領主様とお話します。ピッピもポンタもいますし大丈夫です!」


「いいや、こいつは預かる。あとは好きにしろクソガキ」




 ……そんな訳でシャルナートさんと喧嘩してしまった私は蝙蝠こうもりのピッピを奪われ、落ち込んだままアイナさんと村に向かうことになりました。先日は歌を歌いながらご機嫌に歩いたものですが、この日はうつむいたままアイナさんの手を握ってとぼとぼと森の中を歩きます。


「あいつね、口は悪いけどロナちゃんのことを心配してるんだよ」


「……それは分かります。私が子供だってことも」


「帰ったら一緒にシャルに謝ろうね、あいつにも謝らせるから」


「……はい」


 アイナさんの優しい言葉に少し気を取り直して、やがて着いたのはルイエル村。領主様の家は村の一段高い場所、村を見下ろす三階建ての立派な館です。ここまでアイナさんについてきてもらいましたが、あとは私だけで行かなければなりません。書状に『単身で出頭されたし』と書いてありましたから。


闇の城ドルアロワの主、ロナリーテです。領主様に面会を、お、お願いしましゅ!」




 最後はちょっと噛んでしまいましたが、一人でちゃんとご挨拶できました。

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