闇の城の日常(六)フリエちゃん

 フリエちゃんはいつも黒の外套ローブにとんがり帽子、右手には古木の杖。小柄な体と童顔のため子供扱いされることが多いのですが、エルトリア王国では成人として認められる十五歳。魔術学校を卒業した本物の魔術師さんです。


「おはよー。アタシ朝ごはんいらないわ」


「駄目だよ、ちゃんと座って。スープだけでもいいから食べなさい」


「むー。アイナの意地悪」


 皆が朝食を終えた頃に寝ぼけまなこをこすって起きてきたフリエちゃんですが、さっそくアイナさんに叱られてしまいました。

 フリエちゃんには苦手なことが結構あります。朝早く起きることも、お料理も、お裁縫さいほうも、お部屋の片付けもそうですし、今もにんじんとブロッコリーをこっそり隠し持った袋に入れています。後で庭の小鳥にあげるつもりでしょう。




 昼になると藁箒わらぼうきに乗ってお城の周りを飛び回り、狩りに出たアイナさんに獲物の場所を教えたりしていたかと思うと、風の精霊に命じてお城の掃除をしたり、土の精霊に命じて畑を耕したりと、あちこちに顔を出しては魔法を披露しています。毎日これほど魔法の力を使っているのに疲れた様子も無いところを見ると、やはり優秀な魔術師さんなのでしょう。


「なあフリエ、トマトの水やり手伝ってくれよ」


「ふふん、お安い御用よ。水の精霊、我はなんじを解き放つ!【水飛沫スプラッシュ】!」


 フリエちゃんが古木の長杖ロッドを頭上にかざすと周囲の水桶から一斉に水飛沫が噴き上がり、一帯に大粒の雨が降りそそぎました。


「うわあああ!やる前に言ってくれよ、みんなずぶ濡れじゃねえか!」


「とっととけないアンタ達が鈍いのよ!」


 ですがすぐに他の子供達、特に男の子とはすぐに喧嘩になってしまいます。私が言うのも変ですが、まだ大人と子供の境目なのかもしれません。




 そして皆が寝静まった頃、こそこそと図書室から出て来たフリエちゃんと鉢合わせしてしまいました。私を見つけると慌てて何かを背中に隠したようです。


「どうしたのですか?フリエちゃん。それは何ですか?」


「えっと、その、闇の魔術書よ!アンタみたいな子供が読むと大変なことになるんだから!」


「フリエちゃんは大丈夫なのですか?」


「な、なんとかね。いい?アタシはこれから魔法の研究をするわ。絶対に部屋に入って来ちゃダメよ」




 この日フリエちゃんは自分の部屋に【照明ライト】の魔法を灯し、魔術書を読んで夜更かししていたようです。これではきっと明日もお寝坊をしてしまうことでしょう。

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