闇の城の日常(五)エミーロ君

 エミーロ君は背の高い男の子。ルイエル村からやって来た子供達の中では一番年長で、身長はもうすぐアイナさんに追いつきそうなほどです。




 まだ朝食前だというのに、先程から骸骨騎士スクレットのマエッセンと剣術の稽古をしています。ですがまだまだ素人に毛が生えた程度のようで、簡単にあしらわれては転ばされて涙目になっています。


「でもよお、相手の剣と足元を同時に見るなんてできねえよ。え?遠くの山を見るような感じ?何だよそれ」


 マエッセンは熱心に指導していますがなかなか伝わらないようで、二人揃って首をかしげています。どうやら言葉ではうまく伝わらない、実践あるのみと結論が出たようで、また力いっぱい打ち込んではかわされ、地面に這いつくばってしまいました。




 食堂でアイナさんと張り合うように朝食を食べた後、今度は一緒に薪割りを始めました。さすがにアイナさんのようにはいかず休憩を挟みながら、でもまたまさかりを振り上げます。

 ……でも、時折り横目でアイナさんの方を見ているような気もします。そういえばアイナさんの服装は袖の無いシャツで、豊かな膨らみがちらちらと横から見えているようです。


「アイナのおっぱいばかり見てんじゃないわよ、エロガキ」


「み、見てねえよクソガキ!」


 そこにやって来たフリエちゃんと口喧嘩の末、とうとう【岩棺ロックコフィン】の魔法で首から下を地面に埋められてしまいました。怒ったフリエちゃんがどこかに行ってしまったので私とアイナさんで掘り出したのですが、パンツの中まで土まみれになってしまったようです。




 午後の前庭。木椅子に腰掛け、茉莉花ジャスミン茶を前に本を読むマエッセンの優雅な所作を真似ています。リゼのおすすめで借りてきた英雄騎士の物語を頑張って読んでいるのですが、あまり文字に慣れていないためかすぐ眠くなってしまうようです。

 やがてテーブルに伏せてすっかり寝入ってしまったエミーロ君に、マエッセンがそっと毛布を掛けました。


『この若者はロナリーテ様の良いご友人になるでしょう。……私にはそれを見届けられないのが残念です』


 私は黙ってうなずきました。剣術のお稽古もお勉強も頑張っているエミーロ君にはたくさんの未来が待っていることでしょうが、マエッセンに残された時間は少ないのです。

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