闇の城の日常(三)アイナさん

 アイナさんは大きくて優しい女性剣士です。


 夕焼けのように綺麗な赤毛を短く切り揃え、おっぱいもお尻もとても大きくて、抱き締められると息ができなくなってしまいます。ガラ・ルーファの町を拠点にする冒険者さんで最初はこの城に私を倒しに来たのですが、いつの間にかお姉さんのような存在になってしまいました。




 アイナさんの朝は早いです。私が起きて部屋のカーテンを開けた頃にはもう、剣術の訓練を一通り終わって水浴びをしています。


「こらエロガキ!またアイナの裸のぞいてる!」


「ち、ちげえよ!たまたま通りかかっただけだって!」


 木の陰からアイナさんの水浴びを覗いていたエミーロ君がフリエちゃんに追いかけられ、しばらく逃げ回っていたのですが、とうとう巨大化したポンタに踏みつけられてしまいました。


「おーい、そのへんにしといてあげなよ。減るもんじゃないんだしさ」


「アイナもおっぱい隠しなさいよ!男子なんてみんなエロガキなんだから!」


 フリエちゃんに注意されたアイナさんですが、特に気にした様子もなく水洗いして絞ったシャツを肩に掛けて、大きなおっぱいを揺らしながらお城に入っていきました。これは確かに教育上よろしくなさそうです。




 大皿に山盛りのお野菜、深皿にスープを四杯、朝から羊肉の串焼き、角パンを丸ごと、牛乳を一瓶、私の二日分の食べ物を一気に平らげて、盛大にげっぷをするアイナさん。

 よく食べて、そしてよく働きます。巨大なまさかりを使って恐ろしい勢いでまき割りを済ませ、森に入って行ったかと思えば巨大な猪を狩ってきて皮をぎ、午後からは子供達と追いかけっこをして遊び、捕まえては肩車をして振り回し、泣き出した子は二人まとめて抱っこして……と、慌ただしく荒々しく時が過ぎていきます。


「ねえアイナ、この子なんだけど……」


「また破けちゃったの?いいよ、貸して」


 今度はフリエちゃんに貸してあげた熊のぬいぐるみ、ポンタの背中がほつれてしまったようです。フリエちゃんは何度か自分で直そうとしたのですが上手くいかず、アイナさんに修復をお願いしたもののようですが……


「ほら、できたよ」


「すっごーい、新品みたい!ありがとう、アイナは修理の魔法の天才ね!」


 器用なアイナさんはほつれた場所の修復どころか、あっという間に古い綿を入れ替えて新品のように直してしまいました。フリエちゃんだけでなくポンタまで嬉しそうです。


 そしてまた大量の夕食を大きな胃に収めると、今度はお勉強の時間です。年長の子に本を読み聞かせて、眠くなってしまった子を部屋に運ぶのもアイナさんのお仕事。ルイエル村から来た十人の子供達は、みんな強くて優しいアイナさんが大好きなのです。




 夜、ようやく一人になったアイナさんは……

 自分のお部屋に入ってしまったのでわからないのですが、音から察するに武具の手入れをしているようです。そういえば闘技会で見たアイナさんの武具はぴかぴかに磨かれていました、大柄で雑に見えますがすごく器用で丁寧な人なのです。


 そして皆が寝静まった頃、今日もアイナさんの部屋の扉が静かに開かれます。

 足音を立てずに廊下を歩き、城の外へ。星空の下で一心に剣術の演武を繰り返し、ぶつぶつと独り言をつぶやいてはまた繰り返します。




 それを見届けて、私はそっと部屋のカーテンを閉めました。


 皆気付かないふりをしていますが、裏庭のそこだけが踏み固められて草が生えていないので、みんな知っていますよ。

 騎士になるというアイナさんの夢、いつか叶うと良いなと思います。

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