ガラ・ルーファ豊穣祭(五)
鋼を打ち交わす甲高い響き、石畳を蹴る音、客席からの大歓声、アイナさんとヘクターさんの戦いはいつまでも続くかのようです。その舞台から目を離さずにシャルナートさんは
「……『
「え?いいえ」
「エルトリア王国の役職だ。世襲できない一代限りの騎士でな、あいつの親父はその
私に話しかけているのか、それとも独り言なのか。その視線の先ではアイナさんが汗を散らし、歯を食いしばって大剣を打ち交わしています。
「妖魔から市民を守るために死んじまったけどな。あいつは親父を誇りに思って、自分も『
私が小さく頷いた頃には、広い観客席が静まり返っていました。
既に数十合は撃ち合ったでしょう。アイナさんの髪先から汗が散り、ヘクターさんも肩で息をしています。
「あっ……」
思わず声を上げてしまったのは、アイナさんが隙を見せてしまったからです。ヘクターさんが剣を振り下ろすと見せかけて盾を叩きつけ、続いて暴風のような連撃が襲います。
すくい上げる一撃でアイナさんの体が宙に浮き、自由を奪ったところに斜め上からの斬撃。波に揉まれる小舟のように為す
「おい、まだ早ぇぞ。ちゃんと見てろ」
意外と落ち着いたシャルナートさんの声に目を開け、指の隙間から舞台を覗き込みます。
舞台の端まで追い詰められたアイナさんはそれでも諦めず、ヘクターさんの斬撃をことごとく受け止め、跳ね返しています。ここからでは表情まではよく見えないけれど、きっとアイナさんは自らの勝利を少しも疑っていないのでしょう。
おお、と歓声が上がりました。アイナさんが繰り出した反撃にヘクターさんが
私達だけでなく観客の皆さんも声も無く見守っていたのですが、呼吸を整えたアイナさんが剣を立てて相手に敬意を表すと、一斉に歓声が噴き上がりました。
「やりやがった、あいつ!」
「アイナの勝ちよね、ね!」
私も立ち上がって拍手を贈ろうとしたのですが、シャルナートさんとフリエちゃんに何度も頭をべしべしと叩かれてしまったので、それは叶いませんでした。喜びの表現にしてはあまりに理不尽ではないでしょうか。
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