ガラ・ルーファ豊穣祭(四)

 階段を上り観客席に出ると、強い陽射しに目がくらみます。

 目が慣れてくると、円形の舞台を囲むように作られた階段状の観客席には数えきれないほどの人が座っていました。


「すごい!すごいですよ、人ばっかりです!」


「まだ予選だからこんなもんだろ。決勝はすげえぞ、立ち見が出るくらいだからな」


「ふええええ~」


 やがて現れた軍楽隊のみなさんが勇壮な音楽をかなで、終了とともに一礼すると大きな拍手が送られました。

 それが鳴り止まぬうちに主役の登場です。堂々と舞台に立ったアイナさんは絵に描かれていた通り赤い金属鎧に大剣、物語に出てくる勇者さんのように立派なで立ちでした。思わず大声で名前を呼んで手を振ると、私の勇者さんは笑顔で手を振り返してくれました。


「緊張はしてねえみたいだな。ま、阿呆あほうでも腕は立つからな」


 シャルナートさんの言葉を聞き流して相手の方に目を向けると、こちらもいかにも強そうな風貌の男性でした。年の頃は三十代でしょうか。八方に乱れた黒髪、傷だらけの鎧、使い込まれた剣と盾、どこからどう見ても歴戦の剣士さんで、ヘクターさんという方だそうです。


「相手の方も強そうですね……」


「ったりめえだ、弱い奴があんな所に立ってるわけねえだろ」


「バカね、アイナの方が強いわよ。見てなさい!」




 シャルナートさんとフリエちゃんの言葉が耳に入らないほど、なぜか私が緊張しています。間もなく舞台の中央で両者が軽く剣を合わせると、試合開始を告げる鐘が打ち鳴らされました。


「やあああっ!」


「おおおおっ!」


 二人の気合の声と激しく重々しい金属音に客席が湧きます。うなりを上げるヘクターさんの直剣、それを真正面から受け止めたアイナさんの反撃、風を切る音がここまで聞こえてきそうです。お互いに分厚く重そうな剣と盾を打ち交わすこと二十合、三十合。実力伯仲といったところで、なかなか勝負がつきそうにありません。


 アイナさんは大雑把おおざっぱな性格に反して、その剣術は正統派のようです。恵まれた体格や身体能力だけに頼らず、多彩な技と正確な防御で隙を見せません。たぶん根が真面目で心も強い人なのだと思います。


 対照的にヘクターさんは荒々しい剣術で、時折り足払いや盾を使った打撃など意表を突いた攻撃を仕掛けてきます。力任せなところはあるものの決して雑ではなく、実戦で鍛え上げられた強さを感じます。


 たくましい二人の筋肉が膨れ上がり、髪を振り乱し、汗が飛び散ります。死力を尽くした剣戟に観客の皆さんは大歓声を上げていますが、私はそれどころではありません。


「ど、どうなんでしょう?」


「ど、どうなのかな」


 勝負の行方がわからない熱戦に、思わずフリエちゃんの手を握っていました。


「……ふん、やるじゃねえの」


 隣でシャルナートさんがつぶやきました。どうやら簡単に勝てる相手ではないようです。

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