ガラ・ルーファ豊穣祭(三)

「ロナ、今日は闘技場を見に行くわよ!」


「はい!」


 ガラ・ルーファの町で開かれる『豊穣祭』はまだまだ続くそうで、今日は闘技場で開かれる闘技会を見に行くというのです。フリエちゃんは今度こそはぐれないようにと、私の手をしっかり握ってくれました。




 闘技場は市街中心部にある円形の巨大な建物で、まだ午前も早い時刻だというのにたくさんの人々が詰めかけています。私はその大きさと人の多さと、色とりどりのガラス窓で飾られた壮麗さに圧倒されてしまいました。


「あ、あれ?アイナさんです!」


 入口正面の壁に巨大な絵が何枚も飾られているのですが、そのうちの一枚にアイナさんが描かれていました。紅葉色の短髪にはっきりした目鼻立ち、大柄で豊満な身体に赤い金属鎧を着込み、大剣を握って微笑んでいます。その絵の下には『アイナ・バルテレミー 十八歳 身長:不明 体重:不明』と記されています。


「知ってるの?冒険者の間では『猛牛』って呼ばれてるのよ」


「あ、はい。この前お世話になったのです」


「あれも冒険者で『狂犬』って奴。それからね……」


「おう、ガキども。こんな所で何してんんだ」



 突然頭の上から声をかけられ、見上げた背の高い影はシャルナートさんでした。


「あ!アイナのおまけ!」


「うるせえクソガキ。何でお前がロナと一緒にいるんだよ」


「あれ?お二人はお知り合いなのですか?」




 フリエちゃんとシャルナートさん、それからアイナさんはガラ・ルーファの冒険者ギルドに登録している冒険者さんで、何度か顔を合わせたことがあるそうです。ですが仲が良いというわけではなさそうで、さっそく口喧嘩を始めてしまったので私は話題を変えることにしました。


「シャルナートさん、この絵は何なのですか?」


「闘技会の出場者だよ。アイナも出るんだぜ」


「へええ~。みなさん強そうですねえ」


 特に私の目を引いたのは、四十代後半に見える立派な剣士さんでした。雄大な体格に獅子のたてがみのような黄金色の髪、金色で縁取られた白い鎧に白く輝く大剣、絵だというのに一段違う威圧感を放っています。


「そいつは『黄金の騎士』リアンだな。見たことあるのか?」


「あ、いいえ。立派な剣士さんだなあと思って。アイナさんはこの人にも勝てますか?」


「無理無理無理無理、こいつが出るなら優勝は決まりだ。賭けにならねえ」


「賭け?」


「おう、今日は予選だからな。誰が予選を勝ち上がるか賭けるんだ。絵の下をよく見てみろ、数字が書いてあるだろ?あれが倍率だ」


 アイナさんの絵の下には『四・九』と書かれています。これが賭けの倍率で、賭けた人が予選を勝ち上がるとその倍率を掛けたお金をもらえるそうです。出場者は三十名余り、予選は四~五人が一つの組で、それを勝ち上がった一名ずつが本戦の準々決勝に進むとのことでした。ちなみに『狂犬』さんは五・〇、『黄金の騎士』さんは予選免除ということで数字が書かれていません。


「で、ロナは誰に賭けんだよ?」


「え?私お金持ってませんし……」


「しゃあねえな。これやるよ」


「そ、そういうわけには……」


「いいからいいから。お前にも大人の遊びってもんを教えてやるよ、社会勉強ってやつだ」


 そう言ってシャルナートさんは百ペル銀貨を十枚くれました。確か昨日の宿代が二人で八百ペルだったので、結構な金額だと思うのですが……


「じゃあアイナさんに全部」


「アタシもアイナに千ペル!」


「ほほー!やるじゃねえのお前ら。じゃあ受付に行こうぜ」


 シャルナートさんに連れられてカウンターの奥のお姉さんに百ペル銀貨十枚を差し出すと、掌に収まるほどの木札を手渡されました。もしアイナさんが予選を勝ち上がればこれが四千九百ペルになるのだそうです。




 ふふふ。私は顔がにやけるのを我慢できませんでした。あのアイナさんが負けるわけがありません。アイナさんが勝って、私もお金が増えて、みんな幸せです。

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