ガラ・ルーファ豊穣祭(一)
ガラ・ルーファの町は大都会です。行き交う馬車も人も途切れることがありませんし、表通りは夜でも灯りが消えません。
しかも今日は特別な夜です。夏を控えて大地の恵みを祈り、
「うわあ、包帯男さんです!こっちはかぼちゃのお化けですよ!」
「ちょっとロナ、はしゃぎ過ぎよ。まったく子供なんだから」
そう言うフリエちゃんも右手にホットドッグを、左手にチョコクリームたっぷりのクレープを持ってご満悦です。
真っ赤な裏地の黒マントに黒ワンピの私、黒
「あ、骸骨さんと幽霊さんもいますよ!マエッセンとリゼにも見せたかったなあ」
「そうね。お城に帰ったらたくさんお話してあげましょう」
「えへへ。吸血鬼って怖がられてると思ってたんですけど、そんな事ないんですね!」
夜だというのに明るい街並み、道の両側にどこまでも並ぶ屋台、着飾ったご両親に手を引かれる小さなお化けたち。すっかり嬉しくなった私は黒マントを
見上げた夜空には紫色と銀色、二つの月が浮かんでいます。『
「……あれ?フリエちゃん?」
さっきまで手を握っていたはずのフリエちゃんがいません、浮かれてくるくると回りすぎてしまったのでしょうか。似たようなとんがり帽子を見つけて駆け寄ったのですが、きらきらの
「あれ?あれ?ど、どうしよう……」
「ピッピ!お願い、フリエちゃんを探して!」
肩に止まっていた
「あなた、どうしたの?迷子?」
「ぴゃい!?」
突然後ろから声を掛けられて、私は本当に飛び上がってしまいました。声の主が吸血鬼の格好をした女の子だったので少し安心しましたが、後ろにいる魔術師の格好をしたおじさんと数人の兵士さんはちょっと怖そうです。
「あ、いえ、お友達が迷子になっちゃって……」
「そうなの?一緒に探そうか?」
「い、いえ、だいじょぶです……」
「遠慮しないで。ザイドフリードは本物の魔術師なんだから!」
女の子はそう言いました。魔術師のおじさんはにっこりと微笑んだようですが、何故かやっぱり怖いです。つい逃げ出そうとした私でしたが、そこにピッピに連れられたフリエちゃんが帰ってきました。
「ちょっとロナ、離れないでって言ったでしょ?まったくもう」
「ご、ごめんなさい……」
フリエちゃんに平謝りの私でしたが、先程の女の子はピッピに興味津々です。恐る恐る覗き込んで目を丸くしています。
「あ、あの、どうかしましたか?」
「すごーい!本物の吸血鬼みたい!」
「えっと、本物ですよ?」
「うふふ、面白いね。あなたお名前は?」
「ロナです。ロナリーテ」
「私はロセリィ。
「ピッピです。とても賢いんですよ」
すっかり安心して女の子とお話する私でしたが、フリエちゃんは魔術師のおじさんを
「ザイドフリード!」
「ザイドフリード先生、だ。何度言ったらわかるのかな?フリエ君」
「ふ、ふん!いつまでも先生
「生意気な口は相変わらずのようだね。こちらの可愛らしい吸血鬼ちゃんはお友達かな?」
おじさんが興味深そうに私を見下ろします。目が隠れてしまいそうな黒い長髪、痩せすぎの長身、
「きみ、本物の吸血鬼なんだって?」
「え、ええと……」
おじさんが微笑を浮かべたまま顔を近づけてきました。それだけでも怖かったのですが、黒髪の奥から覗く目が
「ちょっと、やめなさいよ。ロナが怖がってるでしょ!」
「これは失礼、ロナちゃんだね?また会おう」
「は、はい。ありがとうございました」
ロセリィちゃんが「またね」と手を振ってくれたのですが、フリエちゃんは「いーっ!」と顔をしかめて追い払ってしまいました。あの幽霊のようなおじさんを先生と呼んでいましたが、お知り合いなのでしょうか。
「ふん!行くわよロナ。もう迷子になるんじゃないわよ」
フリエちゃんはひとしきりお説教をしながら、私の手を握って歩きだしました。迷子になったのはフリエちゃんも同じだと思うのですが……
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