枯葉の魔女(二)

 この日、私はとても早く目覚めました。よく晴れた気持ちの良い朝ですが、そのためではありません。どこからか女の子の悲鳴が上がったからです。


「きゃあああ!なんで追いかけてくるのよ、あっち行きなさい!」


 昨日から遊びに来てくれているフリエちゃん、可愛らしい魔女さんがばたばたと廊下を駆けてきます。フリエちゃんはこちらを見つけるとそのままの勢いで駆け寄り、私の背中に隠れました。


「ちょっと、何よあいつ!どうしてあんなのがいるのよ!」


「あんなの?」


「骸骨よ、骸骨!アンタ弟子でしょ、何とかしなさい!」


 どうやら骸骨さんに追われているようですが、私はそれほど驚きませんでした。その骸骨さんに心当たりがあるのです。

 やっぱりそうです。がちゃがちゃと骨を鳴らして廊下の角から姿を現した軍服姿の骸骨さんは、私を見ると片膝を着き左腕を胸に当て、騎士の礼をとりました。


「マエッセン!目覚めてしまったんですか?」


 この骸骨さんはマエッセン、長年このレント家に仕えていた騎士さんです。地下室の棺の中で長い眠りについていたのですが、どうして目覚めてしまったのでしょうか。誰かが棺の蓋を開けない限り目覚めることはないはずなのですが……


「あの地下室、ごちゃごちゃしてるんだもの。いくらアタシでもつまずいちゃうわよ!」


 ……そういうことでしたか。お母さんは「マエッセンの助けが必要になったら棺を開けなさい」と言っていたのですが、目覚めてしまったのでは仕方ありません。とりあえず朝食にします。




 久しぶりの賑やかな朝食です。亡霊レイエスのリーゼロッテが鼻歌を歌いながらスープを温め、骸骨騎士スクレットのマエッセンが優雅な所作でそれを運び、食事の準備が整うと丁寧に一礼しました。


「……何だか落ち着かないわね」


「そうですか?おいしいですよ」


「それはそうなんだけど……」


 どうやらフリエちゃんは食が進まないようです。リーゼロッテが表情を曇らせて首をかしげます、もしかして朝食がお口に合わないのでしょうか。そう聞いてみたところ……


「ああもう!はっきり言うわよ、骸骨とか亡霊とかが普通に出てくる城って何なの!?アンタ一体何なの!?」


「あれ?言いませんでしたっけ。吸血鬼ヴァンパイアですけど……」


「はあ!?」


「その、やっぱり怖いですか?吸血鬼ヴァンパイア


「アンタなんか怖くないわよ、子供のくせに!ついでにそこの骸骨も亡霊も怖くなんかないわ!みんなまとめてついてらっしゃい!」


「あの、どこへ……?」


「豊穣祭よ。ガラ・ルーファで年に一回開かれる、すっごいお祭りなんだから。さあ行くわよ!」


「は、はい。でも……」


 骸骨騎士スクレットのマエッセンと亡霊レイエスのリーゼロッテは半分嬉しそうな、半分寂しそうな顔をしました。何故なら二人はこの城の敷地から出られないのです。マエッセンに表情は無いはずなのですが、私にはわかります。それを告げるとフリエちゃんは、両手を腰に当てて胸を反らせました。


「じゃあお土産みやげを買ってきてあげるわ!りんご飴とかクッキーとか、食べきれないくらい!」


「あ、あの、マエッセンもリゼも、食べ物は食べられませんよ?」


「何かあるでしょ!帽子とか本とか飾り物とか。ロナ、アンタは一緒に来なさい!」




 ……というわけで、私は再び蝙蝠こうもりのピッピと熊のポンタを連れて『闇の城ドルアロワ』を出ることになったのです。


「ではマエッセン、リゼ、行って参ります」


 言葉を発することができないマエッセンとリゼですが、私にはわかります。

 二人が揃って「行ってらっしゃいませ」と言ったことが。そして、私に優しくて可愛らしいお友達ができたのをとても喜んでいることも。

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