ルイエル鉱山の腐魔(十)
ガラ・ルーファ市を発った私達は、一路ルイエル村に向かいました。
……と言うのは簡単なのですが、借りた荷車に食料や水、医薬品などを一杯に積み込んであるので大変です。力持ちのアイナさんが荷車を引き、私も後ろから一生懸命押しているのですが、どれほど役に立っているかはわかりません。シャルナートさんはと言えば「周囲を警戒する」と言ってふらりといなくなったり、荷車を押しているふりをしたり、私の脇腹をくすぐったりと、とても自由です。
それにルイエル村に続く坂道は石ころだらけで、疲れてきた私はとうとう足を滑らせて転んでしまいました。
「あ!ロナちゃん転んじゃったの?待ってね、手当てしてあげるから」
「ううう……だいじょぶです」
膝を擦りむいて泣きそうになりましたが、アイナさんがすぐに手当てをしてくれました。今こうしている間にもルイエル村の人達が病気で苦しんでいるのです、それを思えば泣いている場合ではありません。
ですが。ちょうど通りかかった旅人風のおじさんとシャルナートさんが気になる話を始めました。
「ルイエルに行くのかい?強欲な『枯葉の魔女』ってのが出たらしいじゃないか。そんなに荷物を持ってて大丈夫か?」
「『枯葉の魔女』?何だいそいつは」
「枯葉みたいな色の
おじさんが立ち去ると、シャルナートさんが足元の石ころを蹴飛ばしました。
「けっ!野郎、治療させといてくだらねえ噂を流すたぁ、根っこから腐ってやがる」
「治療費ぼったくったのはあんたでしょ?しかも
「
「全然足りなかったじゃん!だいたいあんたね……」
「あ、あの、『枯葉の魔女』っていうのは、私のことですよね……?」
振り返った二人の視線を受けて、私は落葉色のワンピースをつまみ上げました。落ち着いたオトナっぽい色で気に入っていたのですが、これでは村に入ることができません。また気を失うまで治療させられるか、強欲な魔女だと思われて石を投げられてしまうか、どちらかになってしまいます。
「うん。でも大丈夫だよ、アイナお姉ちゃんがついてるからね!」
「……いや、お前は無理に行かなくていいぜ。隠れて見てな」
シャルナートさんには何か考えがあるようです。……というわけで、私は村から少し離れた森の中で様子を
以前と同じく静まり返ったルイエル村に着いたアイナさんは大きく息を吸い込み、その雄大な体格に見合った大声を張り上げました。
「冒険者のアイナです!病気が
木窓の隙間から様子を
「お前達は!『枯葉の魔女』の仲間じゃないか!」
「本当だ!また治療費をぼったくりに来たのか!?」
「帰れ!金なんか無いぞ!」
村人は口々にアイナさん達を
でも村人さん達が私を、『枯葉の魔女』を責めたくなる気持ちはわかります。結局数人しか病気を治すことはできず、多くの人を見捨てることになってしまったのですから。やっぱり私が村人全員を治療すれば良かったのではないでしょうか……などと思っていたのですが。
「いかにも!我らは『枯葉の魔女』の
荷車に腰かけたシャルナートさんは芝居がかった口調で両手を広げ、
「♪
シャルナートさんが言葉を切ると、ぽろりんと
「魔女様は告げられた、皆を救うことができぬ無力な自分を許してほしいと。これらの薬にはせめてもの魔力を込めてある、どうか快癒してほしいと。さあ病に
しばし戸惑い顔を見合わせる人々でしたが、やがて一人、また一人と
それは良かったのですが、なんだか『枯葉の魔女』さんはずいぶんと立派な方のようです。本物はこんなのだというのに、良いのでしょうか……。
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