ルイエル鉱山の腐魔(八)

 鉱山からルイエルの村に戻った私達は、まっすぐに領主様の館に向かいました。

 村を見下ろす三階建ての立派な館です。ルイエルは百戸あまりの小さな集落なので、村のどこからでも見えることでしょう。




 中年で小太りの領主様は応接室で私達を迎えたものですが、胸を反らせて何故か偉そうです。後ろに控える二人の兵士さんもどこか人相が悪いような気がするのは、私の偏見でしょうか。

 ただ、こちらも負けていません。大柄なアイナさんが応接椅子に座らず私達の後ろで腕を組んで仁王立ちしているので、ものすごい威圧感を放っています。本人にはそんなつもりは無いのでしょうが。私は座っているだけで役に立たないので、領主様とのお話は頭脳担当のシャルナートさんの役目です。


「ご苦労だったな。報酬は冒険者ギルドから受け取るが良い」


ねぎらいのお言葉、痛み入ります。では私達はこれで」


「いや、待て。そこの魔女は病気を治せるそうだな。息子を治療してもらいたい」


 そこの魔女、とは私のことでしょうか。早々に話を切り上げようとしたシャルナートさんでしたが、その言葉に深く座り直しました。


「よろしいでしょう。十万ペル頂きます」


「十万だと!?」


 領主様だけでなく、全員がシャルナートさんに視線を向けました。平然とそれを受け止めるこの人、改めて見るととても整った顔立ちです。薄汚れた格好と軽薄そうな表情に隠されていますが、それはひょっとすると、綺麗すぎる中身をごまかすためなのかもしれません。


左様さよう、十万ペルです。領主閣下には大した額でもありますまい」


「馬鹿な!高名な医師でも一度の治療でそんな金額を要求したりはせん!」


「この者は医師ではございません。ただご子息のご病気を治療する能力があり、その対価を求めたまででございます」


「冒険者風情ふぜいが足元を見るとは無礼な!ギルドにこの旨を伝えるが良いな!」


「ならば結構。端金はしたがねを惜しんだばかりに疫病に苦しむご子息はお気の毒ですが、是非もありません」


 わざとらしい動作で両手を広げるシャルナートさん。真っ赤な顔で怒りをこらえていた領主様でしたが、結局はお金を支払うことにしたようです。




 ……やがてご子息の治療で闇の力ドルナを使い果たした私は宿屋の寝台で寝込んでしまったので、アイナさんとシャルナートさんの会話は夢うつつで聞いていました。


「ちょっとシャル、ロナちゃんに無理させすぎだよ。昨日も寝込んじゃったの見てたでしょ?」


「だからよ。村人全員こいつに治療させんのかって話よ。だいたいこれは疫病じゃねえ、腐魔メルビオールのせいで土や水が腐って、それを飲み食いした奴が弱っただけだ」


腐魔メルビオールを倒したから、みんなもう良くなるの?じゃあ領主様をだましてお金もらったってことじゃない!」


「ばーか。土も水も、すぐには良くならねえよ。この金で滋養のある食べ物や薬を買って配るんだよ」


「なんで私達が?領主様に言えば良かったじゃない」


「あの吝嗇ケチなおっさんが村人のためにそんな事するか?おまけにこの吸血鬼のガキ、村人を治してやったのに囲まれて文句言われたんだぞ。俺は許せないね、誰に助けられたのかわからせてやるよ」

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