第二章 闇の城騎士団

ルイエル鉱山の腐魔(一)

「うう……頭が痛いです」


 それだけではありません。足元がふらつきます、ちょっと吐き気もします。昨夜調子に乗って麦酒エールを四杯も頂いてしまったからでしょうか。でも二日酔いという言葉はオトナっぽいような気がします。


 頭を押さえつつ手摺てすりを頼りに宿屋の階段を降りていくと、食堂で朝食を摂っているアイナさんが見えました。向かいの席に座っているのはアイナさんと同じくらい長身の女性のようですが、こちらはずいぶんと細身です。


「おはよ、ロナちゃん。こいつは冒険者仲間のシャルだよ」


「おう、可愛らしい嬢ちゃんじゃねえの」


「ど、どうも。ロナです。よろしくお願いします」


「嬢ちゃん、苗字みょうじは?」


「え?レントといいます。ロナリーテ・レント」


「ふうん。俺はシャルナートだ、よろしくな」


 先程私は長身の女性と言いましたが、それは薄茶色の長い髪の印象が強かったからです。でも顔立ちは中性的だし、体の起伏もほとんどありません。それにこの人はご自身のことを『俺』と言いましたから、もしかすると男の人なのかもしれません。


「で、こいつも連れて行くんだな?」


「どうする?ロナちゃん」


「えっと、お話が見えないのですが……」




 お二人が話していたのはシャルナートさんがけてきた冒険者ギルドの依頼のことで、ルイエルの村近くの鉄鉱山に腐魔メルビオールという腐臭を放つ植物型の妖魔が棲みついたので討伐するというものでした。


 私は腐魔メルビオールなんて怖いし、早くおうちに帰りたかったのですが、本当の妹のように接してくれるアイナさんとすぐに離れてしまうのは申し訳ない気がします。それに妖魔が出て困っている人がいるなら助けたいと思いますし、ちょうど帰り道でもあります。


「ええっと……では私も参ります。すぐに支度しますね」




 お気に入りの落葉色のワンピースに着替え、二日酔いと車酔いを我慢すること丸一日、ようやく乗合馬車は小さな集落にたどり着きました。限りなく広がる深い森を見下ろす山の中の村、ルイエルです。


「ロナちゃん、あれがルイエルの村だよ」


「あ、はい。承知しています」


「ロナはこの村のこと知ってんのか?」


「私のお家から一番近い村ですし、先日ここからアイナさんと馬車に乗りましたので」


 ふーん、と馬車の窓枠に頬杖をつきながら、興味が薄そうに相槌を打つシャルナートさん。私は上目遣いに彼女を観察しようと思ったのですが、目が合ってしまったので慌てて寝たふりをしました。


 この人はアイナさんのお友達らしいのですが、手入れされない顔や髪といい、着崩した服装といい、どこか軽薄そうな態度といい、私はちょっと……苦手な人かもしれません。

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