夢魔の館(六)
「アイナさん、町です!とても大きな町ですよ!」
「そうだよ、ガラ・ルーファっていうんだ。危ないから顔ひっこめなよ」
「あ、はい。すみません……」
注意されて座席で縮こまってしまった私を、向かいの席のお爺さんとお婆さんが微笑ましそうに見ています。この人達は先程からお菓子をくれたり話しかけてくれる優しいご夫婦で、お孫さんの結婚式のためにガラ・ルーファの町に向かうそうです。
「アイナちゃんはロナちゃんのお姉さんなのかい?」
「はい!そうです!」
「ええ!?違いますよね!?」
「いいじゃん、そういうことで。アイナお姉ちゃんに任せておきなさい!」
老夫婦はやはり微笑ましそうに見ています。実のところ私はアイナさんよりずっと年上なのですが、やっぱり子供に見えてしまうようです。
やがてたどり着いたガラ・ルーファの町はたくさんの店が軒を連ねていて、広い通りを行き交う人々もどこかお
アイナさんは妖魔の討伐や隊商の護衛をする冒険者というお仕事に就いていて、ギルドというのはそのお仕事をを仲介したり利害を調整する組織だそうです。のしのしと板張りの床を踏みしめて進んだアイナさんは、カウンターの向こうに座る受付の女性に向かって声を張り上げました。
「アイナ・バルテレミーです!
その大きな声に周りの人が振り返ります。受付の女性などは椅子からずり落ちそうになったほどですが、気を取り直したように確認作業を始めました。
「……では、この子が討伐対象の
「はい!」
私は高すぎるカウンターの上に顔を出していただけでしたが、アイナさんがいくつかの質問に答えて話が進みました。本来ならば依頼の完了扱いは現地確認後になるそうですが、助け出した女性達が証人になってくれたことで報酬の半額前払いが認められたようです。アイナさんは重そうな布袋を受け取り、上機嫌でギルドを後にしました。
「さあロナちゃん、何でも食べていいからね!」
表通りの大きな料理店に入ってアイナさんはそう言いましたが、大皿の肉料理をいくつも注文した後です。私は
「ロナちゃんはこの町に来るのは初めて?」
「いいえ、子供の頃にお母さんと来たことがあります」
アイナさんが笑いをこらえる表情をしましたが、何か
「そっか。今は一人で暮らしているんだよね?」
「はい。お父さんもお母さんも、ずっと前に亡くなりました」
アイナさんは遠回しな質問をしてきたものですが、私は先回りして答えました。アイナさんが優しいのは知っています、お気遣いは無用ですよ、というオトナの配慮です。
「偉かったね。でも寂しくなる時もあるでしょ?あたしのこと、本当のお姉ちゃんだと思っていいからね」
「ありがとうございます。でも慣れていますので……」
「慣れちゃ駄目だよ!」
ばん!という大きな音がして文字通り飛び上がってしまったものですが、テーブルを叩いたアイナさん自身もその音にびっくりしたようです。周りのお客さんも振り返ってしまったので、少しだけ声をひそめました。
「慣れちゃ駄目だよ。寂しいのも、悲しいのも、辛いのも、ごまかしちゃ駄目。全部あたしに言いなさい、嬉しいことも、楽しいことも、何でもないことも、二人で分け合うの。お姉ちゃんとの約束だよ」
「は、はい……」
いつの間にアイナさんは私のお姉ちゃんになったのだろうか、という思いも無くはなかったのですが、なんとなく勢いに流されてしまいました。それに嫌ではありません、この人は本当に私のことを思って言ってくれているのが伝わってきますから。
それに注文していた料理が次々と運ばれてきて、なんだかお話がまとまってしまったような気もします。私は目の前に置かれたオレンジジュースと、アイナさんの前に置かれた
「それじゃあ依頼達成を祝して、かんぱーい!」
「はい。かんぱーい」
私は黄金色の液体がいっぱいに満たされた重いグラスを両手で持ち上げると、中身を半分ほど一度に飲み干しました。
「ぷはー。生き返りましたぁ」
アイナさんがオレンジジュースを吹き出しそうになったのは何故でしょうか。
以前お母さんが口に泡をつけてそう言っていたのが、とても大人っぽく見えたのです。私もこれで少し大人になれたでしょうか。
◆
こんにちは、ロナです。
ここまでお読みくださいまして、ありがとうございます。たくさんのお星さま、ハート、コメント、とても嬉しいです。皆さんにもっと楽しんで頂けるよう、頑張ろうと思います。
これからの展開ですが、官能小説ではないそうでちょっと安心しました。でも作者さんが基本的にえっちでヒロインのピンチが大好きな人だそうなので、油断はできません。前の作品の主人公さんが大変な目に遭ったと嘆いていましたから。
次の章ではお友達が増えて、お城も賑やかになっていくと聞きました。よろしければ引き続きお楽しみください。あ、一言でもコメントなど頂けると嬉しいです。では。
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