夢魔の館(四)

 幼きこの身に闇がみなぎる。永き時の中に忘れかけていた誇りが甦る。


 眼前の娘が振るうは、淫靡いんびなる薄靄うすもやを払う暴風がごとき斬撃。人族ヒューメルとは到底思えぬ膂力りょりょく技倆ぎりょう、なれど魔貴族たるわらわに及ぶものではない。


「アイナとやら、人の身においてなかなかの武。褒めてつかわす」


 黒の大鎌ファルチェ薄靄うすもやを裂き、の者が握る大剣と噛み合い流星雨のごとき火花を散らすも、ものの数合。漆黒の曲刃が人族ヒューメルの胸を捉え、雌雄は決した。




 無造作に歩を進めつつ、黒の大鎌ファルチェを一振り、二振り、三振り。女どもがあられもない格好で折り重なる。

 ……いなわらわとて人喰いの鬼でもなければ血に飢えた獣でもない。黒の大鎌ファルチェの刃がかすめた人族ヒューメルどもはただ意識を断ち切られ、床を這っているに過ぎぬ。


「ふん、他愛もない」


 使い魔たる茶色熊を愛おしく撫でる。その先にはけがらわしく裸体をさらした下級魔貴族。わらわの忠実なるしもべを傷つけたる罪、その身であがなわせてくれよう。


「お前は……魔貴族か?」


「魔血伯ロナリーテ。夢魔インキュバスごときが調子に乗り過ぎたようじゃな」


「あの吸血鬼ヴァンパイアの娘か!人族ヒューメルの女に溺れ、魔貴族の誇りを忘れた愚か者が!」


「父を愚弄することはゆるさぬ。もっとも、ゆるす気は毛頭もうとう無いがな」


「僕を手に掛ける気か?魔龍公が黙っていないぞ」


「下郎が世迷言よまよいごとを。浅薄せんぱくなる夢ごと無に帰すが良い」


「いいや、この寝所は僕の夢だ。花畑を荒らした罪、君こそつぐなってもらうよ」


俗物ぞくぶつが。増長の罪、その血であがにゃ……あれ?あれえ!?」




 私は口に手を当てて、きょろきょろと周りを見渡してしまいました。

 おかしいです、もう闇の力ドルナを使い果たしてしまったのでしょうか。もっと時間があると思ったのに……


 そうか、血です。アイナさんの血にはけがれがほとんどありませんでした。アイナさんは優しくて明るくて単純で、人をだましたり陥れたりすることがない人なのだと思います。

 それにたぶん、きっと、その、意外なことに、しょ、しょ……処女です。そういったけがれの無い血は闇の力がとても薄く、十分な力が得られなかったのでしょう。ということは……


「何だ?今までの威圧感はどこへ行った?お前は……」


「ぴっ……」


「力を失ったか、魔血伯!」


「ぴえええええ!!!」


 思わず逃げ出してしまった私を夢魔インキュバスさんが追ってきます。

 怖いです、おまけにおち○こ丸出しです。私はもうどうしたらいいか、わからなくなってしまいました。

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