夢魔の館(二)

「その汚ないもの隠しなよ、頭ち○こ野郎」


「隠す必要はあるまい、僕は一向に構わないよ」


 夢魔インキュバスさんはむしろ、を見せつけるように両手を広げました。卑怯な攻撃にひるんでしまった私達でしたが、アイナさんが思い直したように大剣を握り直します。


「二度とおかしな真似できないように斬り落としてあげるよ!」


「それは困る、の存在は僕自身の存在と同義なのだからね」




 勢いよく踏み込んだアイナさんでしたが、夢魔インキュバスさんが命じると女性達が寝台ベッドから立ち上がり、裸のまま組みついてきました。ですが彼女らを次々と投げ飛ばし、殴り倒すアイナさんはやはり只者ではありません。

 さらにはしがみつく女性を引きずったまま大剣を振り下ろしましたが、それは夢魔インキュバスさんがいつの間にか握っていた直剣に弾かれました。


「ふむ、人族ヒューメルにしては中々なかなか


「笑ってられんのも今のうちだよ!」


 絡みつく女性を蹴飛ばし、引きずりながらだというのに、アイナさんは大剣を暴風のようなうなりを上げて振り回し、ついには夢魔インキュバスさんの剣を叩き落としました。


「覚悟しな、女の敵!」


 ですが渾身の力で振り下ろされたアイナさんの剣は、二本の角の間で急停止します。


「ふう、人族ヒューメルの分際で生意気な……」




 そういえば聞いたことがあります。夢魔インキュバスさんは女性を絶対服従のしもべとする、【魅了チャーム】という能力を持つと。

 アイナさんはそれに捕らわれてしまったのでしょうか。こちらを振り向いた青い目はうつろに開かれ、口元からはよだれが垂れています。


「アイナさん!?しっかりしてください、アイナさん!」


「ほう?僕の【魅了チャーム】が効かないとはね。きみは何者だい?」


 夢魔インキュバスさんは私に興味を持ってしまったようで、ゆっくりとこちらに歩いてきます。やがて裸の女性達とアイナさんに囲まれるように、私は部屋の隅に追い詰められてしまいました。


「答えなくてもいいよ、ゆっくり調べるとしよう」


 夢魔インキュバスさんが嫌らしい笑みを浮かべました。私を一体どうするつもりなのかと思うと怖くて手が震えてしまいましたが、ようやく背負い袋の紐がほどけました。急いで中から熊のぬいぐるみを取り出します。




「あ、【起動アプリーレ人形兵ペルチェ】!ポンタ、お願い!」

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る