夢魔の館(一)

 夢魔インキュバスさんの館は、果てしなく広がる深い森の中。私とアイナさんだけでは見つけることは難しかったでしょうが、ピッピがお空から探してくれたので、無事にたどり着くことができました。


 奇妙にじれた木々が重なり合う中にたたずむ二階建ての館。魔族が長く棲む場所は植物もその影響を受けると聞いたことがありますが、この森もそうなのでしょう。

 ただ、館の周りは綺麗に刈り込まれていて、前庭にはお花畑もあります。その中にはお花のお世話をしている若い女の人が一人。


「こんにちは!あなたが夢魔インキュバス?」


「……」


 アイナさんが元気よく挨拶をしたのですが、女の人はまるでこちらに気が付きません。それどころか、どこかふわふわとした手つきで一心に雑草を抜いています。


「たぶん違います。夢魔インキュバスさんは男性ですし、この人は立ちながら眠っているようです」


「叩き起こした方がいいかな?」


「起こすのはともかく、叩くのはちょっと……」




 どうやら若い女性をさらっているのは夢魔インキュバスさんで間違いないようです。起こして騒がれてしまうと困るということで女の人はそのままに、館に入ることにしました。

 吹き抜けの玄関広間ホール装飾硝子ステンドグラス、深紅の絨毯じゅうたん、このような森の奥までどうやって運んだのだろうという調度品が並んでいます。


 毛足の長い絨毯じゅうたんをのしのしと踏みしめ、金属鎧を鳴らしつつアイナさんが歩みを進めます。その後を必死についていくのですが、私の身長ではちょうど目の前にお尻が来てしまいます。


「ロナちゃんは夢魔インキュバスのこと知ってるの?」


「いいえ、お会いしたことはありません」


 アイナさんはこちらを振り返らなかったので、お尻に向かってお話しすることになってしまいました。大きなお尻だなあ、と思ってしまったのは内緒です。


「同じ魔族なんでしょ?ぶち殺しちゃっていいの?」


「良くはないんですけど、でも、女の人をさらうのは悪いことですから」


「だよね! よし、遠慮なくぶった斬ってやろう!」


「それに……夢魔インキュバスさんは、眠らせた女の人に、その、えっと……えっちな事をするそうです。それは、良くないことだと思います」


「なにそれ! 絶対許せないじゃん、そんな奴! ち○こ切り落としてやる!」


「アイナさん、お下品です……」




 館のご主人を探し回った私達はやがて、二階の角部屋の前で立ち止まりました。

 扉の奥から人の気配と甘い匂いが漂ってきます、おそらくこの部屋の中に夢魔インキュバスさんがいるのでしょう。


「頭ち○こ野郎、覚悟しろ!」


 言うが早いか、アイナさんは扉を蹴り破ってしまいました。まさかこんなお邪魔のしかたをするとは思っていなかった私は驚きましたが、部屋の中の光景にはもっとびっくりしてしまいました。


 強烈な甘い匂い、広い寝台ベッドの上で絡み合う何人もの女性。その中央に寝転がっているのは黒髪の若い男性、その頭にはじ曲がった二本の角。


「ようこそ我が寝所へ、お嬢さん方」


 そう言いつつ立ち上がった夢魔インキュバスさんは何も身に着けていなかったので、その、アイナさんのような言い方をするのなら、おち○こ丸出しです。顔自体はかなりの美貌イケメンで微笑を浮かべているので、余計に理解が追い付きません。


「きゃあああああ!!!」


「ぴえええええ!!!」


 アイナさんは慣れているのかと思っていたのですが、そうでもなかったようです。私と同じように悲鳴を上げて、指の隙間からを見ていました。

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