第二十九話:其の四

右京

「俺が貰った神器ちからは妖刀:百鬼之宴ひゃっきのえん

 まだ手にしてから半年だが... 見たところ貴様はそれ以下だな」


「へぇ...経験の差だけで私に勝てるんですか?」


右京

「こう見えて俺はアギ魔隊に職を奪われた元軍人でな...」


右京の風貌は見事な逆三角形の体型にパッチリとした七三分け、

スーツにメガネと、ムキムキ模範サラリーマンのそれであった。


右京

「アギとなった今、負ける気など到底無い」


「そうです...か!!」


開幕爆発を起こして右京に襲いかかる御巫。

その爆発はただの爆発ではなく、方向を絞られたロケットの様に、

一切の無駄のない爆炎であった。


右京

(速い...!!!)


ズン!!!


御巫の右からの飛び蹴りを、刀で受け止める右京。


右京

「フン...!」


そのまま足を切断しようとする右京だが、御巫は刀を振られる前に退く。


(取り敢えず初見殺しは失敗、相手は冷静に判断するタイプか。

神器の能力が見えない。分かるまではやりたいことを封じる!)


ドン...ガガッ!!


御巫は多段で攻撃を仕掛けるも、右京は華麗に受け流す。


「受け身ばっかで相手してる気がしない...!」


右京

「すまないな...だがこれが俺のやり方なんだ」


(相手も長期戦タイプ? 

となると私が短期戦タイプと見て受けに徹してるのか。

でも残念だったわね! 私は長期戦でも余裕でイケる!

...まぁ、長期戦タイプなら短期でやるに越したことはないか!)

「おんだらぁ!!! 炎螺旋掌えんらせんしょう!!!!」


右京

「ッ!?」


ドガァアァァアアアア...!!!!


刀で御巫の掌を受け止めるも、

空気の摩擦で燃える程加速した御巫の手は、刀ごと右京を吹き飛ばす。


「追い打ちかけたらぁ!! 紅鎌脚くれんきゃく!」


炎を纏った足を爆速で鎌の様に振り下ろす。が...


右京

「危うく瞬殺されてしまうところだったが... 間に合ったか」


スチャ...


右京の刀が淡い薄紫色に光り出し、御巫の足を弾き返す。


「なんか...やばい気がする」


ゴクッ...


ただならぬ雰囲気に、息を飲み込む御巫。


右京

朱天しゅてん...導斬どうざん!」


ズアァァアアァァアアァア!!!!!


辺りのビルが一斉に切り倒れ、雲が割れ雨が降る。

御巫は危険を察知し咄嗟にブリッジをして躱していた。


「ちょっと殺す気なの!?」


右京

「溜めがデカかったし、貴様の身体能力なら躱せるだろうと踏んだ。

 ついでに後ろからの追手を塞いだ」


「加勢されたら勝てないって事ね」


右京

「抜かせ、貴様の逃げ道を消したまでだ」


右京兼嗣うきょうかねつぐの神器、百鬼之宴ひゃっきのえんは、魔界の力を引き出す刀である。

刀から妖怪を生み出したり、妖怪の力を行使したり、

妖怪から妖力を抽出して刀から飛ぶ斬撃として放ったりなど、

出来ることは様々だ。しかし、神器として重大な欠陥がある。

まず刀の力を使うのに鞘から出して10分の時間を有すること。

そして鞘から出し続けると錆び始めること。

神器として右京以外は刀に触れることは出来ないが、

右京は刀と離れていても刀を呼び出すことが出来ないこと。

つまり刀が近くになければ戦闘開始できないのだ。


右京

「金縛り」


「...!? 身体が...動か...ない!?」


右京

「手短に終わらせてやろう。羅刹太刀らせつだち!」


(これはマズい! 早く動け私の身体!! 止まんな!)


グググ...


御巫の腕が少しずつ動き始める。


右京

(もう動き始めた? 魔物でもない限り有り得ない!)


ズザザザザ!!

御巫の全身に切り傷が入る。も、大した傷にはならない。


「直前に顔だけは防げたようで何よりだわ」


右京

「その程度の傷で済むとは...能力の適応の範囲を超えている?

 金縛りが解け始めるのも異様に早かった...

 能力を2つ以上有しているとでも言うのか...?」


紅蓮脚グレンキャク...!」


金縛りの本質は脳に妖力の波を当て、脳波の動きを狂わせる事にある。

狂わすことが出来るのは筋肉の動きだけではあるが、

解除するには20秒待つか妖力の波の妨害を超える強い意思が必要である。

人よりも強い意思と精神力が。それは、内なるデルタの意思であった。

御巫はそんなことなどつゆ知らず、反撃の一手として、

足をオーバーヒートさせ反撃の機を伺っていた。

その時間にして16秒。その足で動ける時間は5秒にも満たないが、

思考力が極限にまで上がっていた御巫にとっての体感時間は、

約18秒にも膨れ上がっていた。


右京

(これは...とんでもないのが来る!!)

「来い塗り壁!雪女!」


魔界から壁と雪の妖怪を呼び出す右京。


ドガッ


それを元々無かったかのように蹴り壊す御巫。


右京

「うぐぁっ」


ドガガガァァアア!!!

防御と反撃の姿勢をとった右京を一蹴し、飛ばす。


右京

精霊之ショウロウノ...」


ドゴッ

右京がまた立ち上がり反撃を仕掛けた瞬間、

御巫は背後から膝蹴りを食らわせた。


右京

「がはっ」


炎廻脚ヒートブレイク!」


手を地面に付け、足を開いて高速回転しながら右京に襲いかかる御巫。


ダダダダダ...


右京

「ぐあ"ぁあっ...!!」


刀越しに御巫の強烈な蹴りが大量に入る。


右京

「憑依:水虎スイコ!」


空いた一瞬の隙に水虎の強靭な鱗が右京の腕に生える。


紅鳶蹴レッドドロップ!!」


音速を超えるドロップキックで、

防御姿勢を取った右京の腕ごと蹴り飛ばす。


(残り1秒! 早くトドメを...!)

「火車蹴り!」


飛ばされた右京を上回るスピードで走り、

タイヤのように回転しながら蹴り飛ばそうとしたその時ー


ジュウウゥウウウ....


御巫の足に灯っていた熱が消えた。


「えっ」


右京

「なめくじら!」


ドゴオオォォオオオォオオォオオ!!!!!


鯨程の質量を持った毒の塊が、御巫に向かって上空から落ちる。


...御巫は誤算をしていた。右京が降らした雨と、

蹴り倒した雪女、そして触れたものを水を纏わせる水虎の鱗、

その冷却により紅蓮脚の活動可能時間が0.2秒縮んだのだ。


「ま"...ま"だ...」


御巫は立ち上がろうとするも、身体が思うように動かない。


右京

「安心しろ、その毒は麻痺する程度で死にはせん」


「まだ...終わ"って...な"い...!」


右京

「大した娘だ。この敗北を糧に強くなれ」


「待て...つってんだよ!」


御巫は碌に動かせない足で立ち上がる。


右京

「根性も大したものだな」

(とはいえ俺も、肋骨が二本、利き腕の右腕が折れてるな。

全身に火傷や痣が出来てる。怪我の具合は似たようなものか)


「炎陽...」


右京

「炎羅...」


私    右京

「爆火!」「園螺!」


ドジュゥウゥウン...!!!!

お互いの技がぶつかり合い、相殺されるも...


右京

「またか...!」


ズン...!

御巫と右京がその場に引きずり込まれる。


炎螺旋掌えんらせんしょう!!!」


右京

「見上げ入道...!」


御巫の攻撃を上に逸らす右京。


右京

火達磨ヒダルマ!」


燃え盛る柄で御巫の脇腹を突く右京。その箇所には奇しくも、

羅刹断ちによる傷があった。


「あ"ぁ"ぁ"あ"!!!」


なめくじらの毒は傷口に入ると神経を麻痺させる効果と、

それに加え痛覚の拡大を促す毒が入っている。

御巫は傷口を小突かれただけでも、その痛みは想像を絶する。

それでも御巫は立っていた。


右京

「どれだけタフなんだ、君は」


「痛いからって...戦いを止められる理由には...ならない!」


右京

「何だと...!?」


よく見ると御巫の傷口が塞がってきていた。

それは脱皮の力による回復力の向上であり、

常人の約300倍の再生能力を持つ。


「毒のおかげかしら! 最高に気分が良いの!」


御巫の腕が蒼く光り出す。それは第二の能力ではなく、

第四の能力の覚醒である。


右京

「何が起きている!?」


「閃光...爆海!!」


御巫に発現した第四の能力とはー

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