第二十三話:二時間の友情

「まだかな...」


御巫は半壊した新宿の街で、一人ラミを待つ。


魔人

「できる限り建物も壊し尽くせ! 人間を手当たり次第抹殺しろ!」


ラミを含めた魔人達もまた、新宿に来ていた。


ラミ

「その必要はないでしょ!?

 あくまで集落を襲った人だけやり返せばいいじゃない!」


魔人

「人間に手当たり次第殺され、壊されたのに、か?

 そもそもオマエは襲われた時に居合わせもしなかったくせに、

 オレ等に指図するのか? 俺等の中でも一番強いのに!」


ラミ

「...皆はそうすればいいじゃない。

 ワタシは集落を襲った奴とだけ戦うよ」


そういって魔人たちは壊れた新宿に追い打ちをかけ続ける。


魔人

「来たなアギ魔隊! 3の文字がある!

 アイツ等が俺たちを襲ってきた野郎共だ!」


新宿襲撃の報告を聞きつけ、参番隊が出動する。


参番隊"金"副隊長:小田信馴おだのぶなれ

「新宿に魔人が襲撃しに来た。早く逃げなさい」


御巫

「魔人の...襲撃?」


小田信馴

「あぁ、昨日魔人の集落を壊滅させたと思っていたのだが、

 取り溢しがあったらしく、その残党が暴れてるらしい」


御巫

「...なるほど。ではお仕事頑張ってください」


そう言って寮へ帰ろうとする御巫だったが、やはり引っかかる。


御巫

(ラミ...もしかして殺された? そんな事...)


魔人

「殲滅しろぉ!!!」


参番隊隊員達

「返り討ちだァァアアァァア!!!」


参番隊と魔人の戦いは過激化していく。

そしてその争いを一瞬で終わらせたのは、他の誰でもないラミだった。


ラミ

「許さない...!!」


窮地に駆けつけた小田だったが、参番隊隊員は全員戦闘不能であった。


小田信馴

「さて、今日は隊長が不在故、吾が相手をしよう」


ラミに刀を向ける小田。


ラミ

「いいのおじさん? 強いよ? ワタシ」


魔人

「ソイツの相手は頼んだぞ! オレ等じゃ多分勝てねぇからな!

 俺等は周りを荒らして回る!」


そういって魔人達は御巫が避難している方向へ逃げる。


小田信馴

(そっちはまずい!)

「行かせてなるものか!! 御削みそぎ!」


小田が刀を魔人に向けて振るも、ラミがその腕を止める。


ラミ

「アンタの相手はワタシだって」


小田

「小賢しい...!」



〜視点は御巫へ移る。〜


魔人

「いたぞ! 人の子だ! 殺せ!」


「へへッ、こっちにまで魔人が来てるじゃないの!

 返り討ちにするしかないか...とは言っても、

 アギ魔隊の許可なしに魔物狩りは校則で禁止だもんね...

 ま、命の危機だししょうがない...か」


ドガッ...!


そう言って魔人を倒そうとした御巫だが、

魔人達の連携は御巫の動きを封じ、魔人からの攻撃をまともにくらった。

...団体戦時の御巫ならばこの程度の魔人は一蹴することが出来ただろう。

しかし、その時とは明確に違う点がある。まずは集中状態、

いわゆるゾーンに入っていない。2つ目に、心に不安が残っている。

そして何より今から殺すのは生物であるという点である。

団体戦では殺しても、あの空間では後遺症の一つも残らない。

その情報と確信があったから何の躊躇いもなく殺すことが出来た。

だが今は生物、ましてや人語を解する人型の魔人である。


「はぁ...チキンなよ、私。紅蓮脚グレンキャク


ドジャッ! ジュアァァア!!!


殺すことへの抵抗を必死に押し殺し、魔人を次々とその足で薙ぐ。


「オ"エェ...!!」


目の前に広がっている緑の血の池と魔人の肉片の数々、

そしてそれを作る工程と、その時の足の感触が御巫を襲う。


「ア"ァ...ハァ...」


御巫はとにかく気分が悪いので、寮へ帰ろうとしたその時ー


ラミ

「ツムグ...?」


「あぁ、ラミじゃ...」


御巫が振り返ると、そこには片腕を失ったラミと、満身創痍の小田がいた。

その光景を目の当たりにして御巫は、大まかな状況を察した。


「あぁ、やっぱそういう事。まぁそうなるわ...ね。

 魔人と少しでも分かり会えると思った私が馬鹿だったわ」


ラミ

「違うのツムグ! ワタシは...」


「もういいよ喋んないで、今すこぶる機嫌が悪いの」


ラミ

「そんな事言うならツムグだって!

 ワタシの仲間を殺したじゃん! もう一人だよ? ワタシ」


「じゃあもうお互い引き返せないね」


御巫はラミに戦闘態勢を取る。


ラミ

「ワタシがツムグから何を奪ったっていうのよ!」


「少なくともアンタの仲間は私を殺そうとした。

 私がここに来ることを利用した」


ラミ

「利用したつもりなんてないよ!」


「この状況でそんなのが信用に値すると思ってるの?

 しかもアンタはアギ魔隊に手を出した。でもアンタにとって見れば、

 私はアンタの仲間を殺した、アギ魔隊がアンタの腕を奪った。

 これでお互い殺し合う理由は充分でしょ。これ以上は水掛け論、

 もう意味がない。じゃ、殺るよ」


ラミ

「そんな...でも.....

 わかったよ。ワタシはもう何も信じない」


「それでいいのよ。爆掌ニトロフィスト!!」


紅蓮脚の熱を腕の中で発生させてラミに殴りかかるも...


ラミ

「バウンディシャボン!!!」


ラミはその肌から巨大な割れない泡を生成し、御巫の攻撃を弾く。


ラミ

「バブルルーレットマシンガン!」


ラミの腕から40cm程の泡が大量に吹き出す。

その泡一つ一つが属性攻撃を放ちながら御巫に向けて割れる。


「こ"の程度で牽制したつもり!?甘いんだよ!!」


御巫の機動力でラミの背後へ一瞬で回り込む。


ラミ

「バキュームシャボン」


「!?」


ラミの後ろに回った筈の御巫は、突然ラミの目の前に引きずり込まれる。


ラミ

「アブソリュートシャボン」


御巫の腹に氷の泡が直撃した瞬間、御巫の身体が氷漬けと化した。


ラミ

「じゃあね。たった2時間だけだったけど、楽しかったよ」


氷像となった御巫に別れを告げようとしたその時ー


「凍らせた位で...勝手に...勝った気になんじゃ...な"いわよ!」


ジュゥウゥウ...

氷を溶かしながら御巫が動き出す。


ラミ

「まだやるの? ツムグじゃ無理だよ」


「今、アンタの殺し方を思いついたトコ。あと、

 もう私の名前を呼ぶのやめて。反吐が出る」


ラミ

「あっそ。バブルドーム!」


ラミの周りに水のドームが形成されていく。


「だからその程度で勝ったつもりになんなし!」


ラミの推定危険度はLv.5。その権能はシャボン玉を生み出す力である。

そして生み出したシャボン玉に一つの力を付与させる事ができる。

炎を吹き出すシャボン玉、水を内包するシャボン玉、

電気を生じさせるシャボン玉、冷気を生じるシャボン玉、

中が真空のシャボン玉、位置が固定される固体のシャボン玉、

その他様々な効果のシャボン玉の中から一つを指定して放つことが出来る。

割る割らないは自分の好きなタイミングで操作可能。


ラミ

「片手でもツムグには負けないかな」


「黙ってくれる!?」


ドボン!

御巫がラミの水のドームに入ったその刹那...


ラミ

「ボルトシャボン!」


バリリリリィ!!!


「あ"が"ぁ"ぁ"あ"!!」


ドーム内で電撃を放つシャボン玉を割り、御巫に電撃を食らわすラミ。


ラミ

「無駄だよツムグ。相性が悪すぎる。さっきのはハッタリでしょ?

 私を殺すなんて無理だよ。ツムグの機動力も、

 水のドームが障害になってうまく活かせないし、私に攻撃は届かない。

 別に、ツムグが弱いわけじゃないんだけどね」


「ゴタゴタゴタゴタぅるっさいんだよ...!」


御巫は両腕をラミに向ける。


炎陽爆渦えんようばっか!!」


ドゴオォオォオォオオォオ!!!!

超高密度の爆炎を巻き起こしてドームを削る御巫。


ラミ

「すぐに直せばいいだけ...ッ!?」


爆発が終わった後、ラミは爆発が起きた地点に引きずり込まれた。


焼脚しょうきゃく!!」


ラミ

「ホ"ゴ"エ"ェ"ッ...!!」


御巫は初めて友達の顔面に渾身の一撃を食らわせた。

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