第二十一話:魔王の存在証明その1
時は3年前、福島県のとある森でレベル5の魔物が発生した。
その魔物には能力があった。"略奪の力"。戦闘不能となった相手の能力を、
5つまで自分の物に出来るという物である。
アギは初めて能力を使用して能力を自覚する事が出来るが、
魔物は生まれた瞬間から能力の把握が出来る。そしてその魔物は理解した。
自分が産まれたこの場所は他の魔物の縄張りであると。
そこに縄張りを張っていた魔物が襲いかかって来ると、
その魔物を返り討ちにしてとある能力を略奪する。学習の力である。
その能力とレベル5たる魔物の身体能力を持って、
また襲いかかってきた一人のアギ魔隊の隊長を含む数名を殺害した。
そうこれは、魔王誕生の物語である。
???
「なぁ俺と手を組めよ、全部与えてやる」
連戦で満身創痍の魔物に、別の魔物が話しかける。
魔王
「...テヲクメ?」
後の魔王は目の前の魔物に敵意が無いことを理解する。
???
「ま、普通は魔物に何言っても伝わらねぇか...ってアレ?
喋れるのか、言葉を! 魔物なのに!?」
魔王
「ナカマ? シャベル...」
言語を解する魔物
「あぁなるほど、お前まだ学習段階か。そういう能力ってわけだな。
まぁいい、言葉は俺が教えてやる。取り敢えず今は俺に着いてこい、
次はもっと大勢がお前を襲いに来る。その前に俺の基地まで逃げるぞ」
魔王
「...」
こうしてとある魔物に手を引かれるがまま、魔王はアギ魔隊の捜索の手から逃れ、
魔物の作った基地で魔王として姿を現すまで隠れる事となる。
言語を解する魔物
「ここが俺の基地だ。ここなら誰にも見つからない」
魔王
「ココ、キチ」
言語を解する魔物
「言葉覚えるの早いなお前。これなら会話が上達するのも秒だな」
言語を覚える魔物の教育で、魔王は僅か3週間で言語を会得した。
言語を解する魔物
「要するにお前を長とした軍、魔王軍を作って国を滅ぼすのさ。
それを率いるお前は絶対的な王でなくちゃいけねぇ。
だから今日からお前は魔王を名乗れ。」
魔王
「その前に、お前の名前を教えろ。なんと呼べばいい」
フィル
「名前か...フィル、人間からはそう呼ばれてる」
魔王
「そうか。フィル、俺らはこれから何をすればいいんだ?」
フィル
「暫くは軍の増強に務める。何、簡単な話だ。
強い魔物をアギ魔隊が嗅ぎつける前に軍に引き入れる。
お前をスカウトする前から軍に入れる奴は何体か用意できてる。
それを束ねられるのがお前だ。
お前の能力、奪える数に限りがあるんだろ?」
魔王
「そうだな。5個まで奪えるが、一つは学習の力で埋まってる」
フィル
「なら残りの4つは慎重に選ばないといけないな。
お前はレベル6の魔物を超えてもらわなければ困る。
レベル6の魔物も、結局は殺されてきた。
お前と一緒でレベル6の魔物も能力を複数個所有できる。
でもお前にしかないアドバンテージが、能力を選べる点だ。
そして俺がいる。お前を助ける軍がある。強い魔物は群れない?
違うね! 群れたらもっと強い! この世界を俺たちの物に出来る程にな!」
魔王
「なるほど。じゃあどうする? 残りの4つの能力」
フィル
「うん、その事なんだがこの国には国中のアギを集めた戦闘集団がいる。
この国を乗っ取るにはソイツらと相まみえる事が確定している。
だから長期戦を前提に動くんだ。その為に、再生能力は欲しいな。
お前の身体能力で再生までされたら、相手の戦意まで削れる」
魔王
「そうだな。アテはあるのか?」
フィル
「あぁ、目星は付いてる。5人、アギの中から絞ることに成功した。
そして一番雑魚で襲撃しやすいのがこの男だ」
そう言って言語を解する魔物は、再生の能力を持った一般男性を襲撃。
魔王に能力を略奪させ、魔王に2つ目の能力が宿った矢先ー
フィル
「まずいぞ、厄介なのが現れた。
新しくアギ魔隊総隊長に成ったこの男、対策しないとオワリだ...!」
所持していたPCの様な機械からアギ魔隊の情報を仕入れていたフィルだが、
好機と見た時に飛び込んで来た情報は、アギ魔隊で総隊長となったばかりの、
天城雄介の存在であった。
魔王
「どんな奴だ?」
フィル
「う〜ん、確認されただけでも3つの神器に複数個の能力だな。
その一つ一つがどれも突破に時間がかかる。特にヤバいのがー」
アギ魔隊壱番隊隊長、天城雄介の能力を把握し、対策を立てた魔王。
〜視点は魔王と天城雄介へ移る。〜
魔王:オリオン
「コレが貴様の驕りだ、天城」
魔王を前に、天城は倒れていた。
....フィルが講じた案、それは白雪から奪った振動の力で、
一回の打撃を10回に増やして加護の力を使い果たし突破、
その後振動で脳を揺らすことで脳震盪を起こし、
戦闘不能状態にするという作戦であった。
天城
「あが...が..あ"ぁ!!!」
ぐじゅぁっ
気絶の危険を察知した天城は、自らの頭を聖剣で貫いた。
...天城の6つ目の能力、"復活の力"。
一日に一度だけ完全復活を可能とする。そして、
死ななかった日は復活の力がストックされる。現在21歳の天城は、
実に7748回死から復活する事が可能である。そして復活する度、
加護の力も復活する。つまり一撃で天城を殺せる力を持っていたとしても、
天城を殺すためには最低85228回不可避かつ防御不可の攻撃を当てる必要がある。
だが天城は自殺により完全復活を果たす。
天城
「どっちの驕りで今の状況に陥ったか、教えてもらおうか」
魔王
「自殺をしなければ負けていた癖によく言う」
フィル
「そこまでにしておけ、撤収するぞ! ネバがやられた!」
魔王
「あのネバがか? ...わかった」
天城
「逃がすか、青天の霹靂!」
ギシャァアァァアァア!!!
聖剣の力を開放し、天から青白い稲妻の斬撃を落とす天城。
魔王
「ッ!?」
魔を滅する雷が、魔王を追い詰める。
天城
「殺す、今ここで!!」
ズギャァァァ!!!!
電気を帯びた3本の矢が、魔王に突き刺さる。
魔王
「うぐぁっ!」
フィル
「あぁもう、クソが!
フィルの所持しているアタッシュケースから、
目には見えない放射能の光線を天城に向けて発射するも、
加護の力はそれすら反射する。
天城
「ナメるな魔物如きが!」
フィル
「
ジュワァッ!
巨大な泡の壁を構築し、天城の視界と突撃を妨害する。
天城
「小賢しい...!」
ズアァッ!!!
泡の壁を切り裂いた時には既にフィルと魔王の姿はなかった。
天城
「あぁクソっ!! まだだ、まだ近くにいる筈だ!」
建物の屋上まで飛び、弓を構えて周りを見回す天城。
フィルと魔王を発見した時には、
今から全力で追っても間に合う保証は無い程に遠くまで逃げていた。
天城
「見つけた...!」
漆番隊"冥"隊長:
「もう無理だよ、雄介ちゃん」
天城雄介
「黙れ俺はまだ行ける! 今出来なかったら更に被害が悪化する!!
俺にはそうせざるを得ない"責任"がある!!!」
古近衛
「下手に追って返り討ちに会ったらどうすんのさ!
アイツには再生の力があったんだろ! それにさ...今の新宿を見なよ」
天城
「...!!!」
天城が見た光景は、瓦礫の山と化した新宿の姿であった。
古近衛
「まずは、被害が出た所をどうにかするのが、
君の責任じゃないのかい?」
天城
「だが...いや、そうだな。被災者の救助が先決...か」
視点は魔王達に移る。
フィル
「今回の目的は魔王という存在を人間に知らしめることだ。
だがそれの為に色々な物を失った。
今までに集めた戦力の半分を投下したが、
生き残りは俺とお前だけだ。ネバも死んだ」
魔王
「あのネバが...そうか、逝ったか」
フィル
「だが、得たものも随分大きい。ネバとお前が新宿を消した。
アギ魔隊がいて尚だ。その上アギ魔隊の象徴とも言える男を、
一度自殺に追い込んだ上に逃げ切った。これ以上にない存在証明だ。
人々に不安を与える要素としてはな」
魔王
「あぁ...そうだな」
アギ魔隊、魔王軍共に、多大な損害の痛み分けをして争いは終わった。
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