第肆章:第一次新宿の変

第十八話:塞翁が馬である

「何故拙者に追いつける!?」


「アンタみたいに簡単に手の内明かさないわよ!」


赤黒く光る御巫の脚の一閃が忍に入ろうとするも、

忍は自前のデカいカッターナイフの様な物で防ぐ。

が、その刀は溶け、忍の左脇腹が抉れる。


「あ"が"ぁ"あ"ぁ"あ"...ッ ! ! ! 」


「畳み掛けるっ!!」


残り2秒の音速の時間を、追い打ちに費やす。


「飛べ!」


手裏剣をまた御巫に向けて投げる忍。


「それはさっき見た!!」


スライディングして手裏剣を躱すも、爆炎で一瞬前が見えなくなる。


「どらぁあ!!」


道路に転がっていた砂を御巫に向けて撒き、爆発させる。


「痛っ!!」


一粒一粒の爆発の威力は大した事は無いが、

それがマッハで突撃してくる相手の目に直撃すれば、

その威力は失明しても不思議ではない。

脱皮の力で強化されたおかげで、

失明しなかったが、2〜3秒は目を開けられずにいた。


残音爆刀ざんおんばっと!!!!」


忍の一家はその独自の走法にで音速を超える速度をで走ることが出来る。

ただし、最高速度トップスピードに至るまでに3秒と大きな時間を要する。

その上その走法を実現するためだけに必要な筋力だけを鍛え上げた結果、

刀を振る筋力すらままならず、

普段は刀を軽量化したカッターの様な物を主要の武器とする。

その攻撃は音速で動いている以上、碌に狙いも定まらない。

そんな弱い刀と筋力でまともに敵を切れるはずもなかった。

速度に身を任せて刀を置いて走る。

これが今までの忍一家の戦い方だった。

その全ての弱点を補う事に成功したのが忍創真なのである。

初速から靴を爆発させて最高速度にかかる時間を無くし、

足りない火力を爆発で補う。

爆発を起こせば狙いが多少外れても攻撃が当たる。

忍はひたすら御巫が2秒目を瞑っている間に、

2本目の刀で斬りかかり続けた。


「どうなってやがる!? 常人の筋力の範疇じゃないだろう!」


爆発で火力を補って御巫を攻撃するも、

その刃は御巫の骨にすら届かない。


「肉を切らせて...骨をブッ壊す!!!!」


御巫の腕に突き刺さった刀を引き抜く間に、忍の首を掴んで全力で殴る。


「天晴れ...!

 だが...このまま一点も取れず逝く訳にはいかない!!!」


「ッ!?」


「道連れだ、御巫!!!!!」


忍は御巫の腕を掴み、もう片方の手で御巫の腹に刀の先端を突き刺す。


「死ねぇぇええぇぇぇえ!!!!!!!」


「させるかぁぁあああぁぁぁぁああ!!!!!!」


ドガァァアアァァァアアア...!!!!!!!!!

御巫の腹に突き刺した刀の先端から爆炎が巻き起こる。


「ハァ...ハァ...この調子じゃ後3分も持たないか...

 最悪、してやられた...痛ったぁ...

 これでゼロポイントになっちゃった...ごめん皆...」


内臓もグチャグチャになり、脱皮の力や根性でも覆せない負けを認め、

潔く逝こうとしたその時ー


???

「その心配は無いですわよ」


「あなたは...!?」


御巫の元へ現れたのは漆原チームに敗れて居ないはずの有栖であった。


有栖

「元から保険として分体を隠しておりましてよ。庭香さんの案ですわ」


「よかったけど...ビビらせないでよマジで...

 ずっと一人かと思ったわ」


有栖

「すみません、一人倒すのに時間がかかってしまいまして」


「えっ、それじゃあつまり...」


有栖

「えぇ。現在12ポイントで3位ですわ」


「そう...よかった。...ありがとね」


有栖

「お礼を言うのはこちらの方でしてよ?」


「それじゃ...後は頼ん...だ...よ....」


残り2〜3分を有栖が逃げ切る事に託し、御巫は眠る。


...目が覚めた時には保健室にいて、対抗戦も既に終わっていて、

ベッドの周りにはチームの皆が御巫を見守っていた。


「...結果は?」


庭香

「生存点加味して13点、第3位で入賞だよっ!

 やったね紡ちゃん!」


「よかった...皆ありがとうね...!!!」


佐久間

「僕は何も...」


「何言ってんの、

 佐久間君が防波堤になってくれなかったら色々大変だったよ?」


獅子葉

「オデモ頑張ッタ」


「そうね、お疲れ様! そして庭香ちゃんもマジでありがとう!

 今日のために色々頑張ってくれて、最後の保険で3位まで行けたし」


庭香

「礼なら有栖ちゃんに言うべきだよ...

 足を引っ張らない最低限の努力をしただけだし...」


「謙遜しないの、色々コッチも助けられてるからね」


庭香

「うん...そうだね!」


佐久間

「でも、何より頑張ったのは御巫さんじゃないですか!

 まさかあの漆原君を倒すだけではなく、

 Aクラスの生徒まで倒すとは!

 御巫さんも労ってばかりじゃなくて、労われてください!」


「それもそうね」


その後しこたま褒められて気恥ずかしかったのを覚えている


獅子葉

「有栖、迎エニ行ク」


「そうしよっか」


なんと今回の対抗戦、生存者は7人らしい。どんな魔境だっての。

あぁ、もっと戦いたかったな〜。

でもまたこういう機会はあるか、戦う専門の学校だしね。


「おかえり有栖ちゃん!」


有栖

「ただいま戻りました」


生存者専用の出口から戻ってきた有栖を含めた5人で、

その後はとにかく祝い続けた。その後はホームルームをすれば、

いよいよ帰宅。ゆっくり出来る。


音弥(Cクラス担任のやつ)

「今日はご苦労だったな、

 まさかこのクラスから上位3チーム入りが出るとは思わなかった。

 今年はスゲーなマジで。ま、

 長ったるいのも疲れてるから嫌だろうし、

 このぐらいでホームルームを終わりにするぞ〜、気を付け、礼」


Cクラス一同

「さような」


ガシャアァァァアァアアアァアアン!!!!!


皆がお辞儀をしたその瞬間、窓から何者かが侵入して音弥を殴り飛ばす。


音弥

「うが"ぁ"ぁ"あ"あ"!!!!!」


???

「これで邪魔は消えた、雑魚から能力選び放題だなァ...」


体長3m程の人型の化け物が、クラスの皆の方を向いて笑う。


漆原

「皆さん今すぐ逃げて先生を呼べぇ!!!!!!!!」


???

「させねぇよ」


漆原を殴って校庭まで飛ばし、白雪の頭を掴む。


白雪

「あ"ぁ"あ"ぁ"ぁ"あ"ぁ"あ"ぁ"あ"あ"ぁ"ぁ"あ"あ" ! ! ! ! ! ! ! 」


「何してんだお前ぇえぇえぇええ!!!!!!」


ぐしゃっ


白雪の頭が握り潰され、身体が化け物の腕から落ちる。


天摩

「い"や"ぁ"ぁ"あ"ぁ"あ"ぁ"ぁ"あ"あ"ぁ"ぁ"あ"!!!!!!!」


???

「これが振動の力...いいぞ、馴染むなァ...」


人形の魔物は自分の掌を見つめていた。


...御巫には脳裏にチラついてもしてこなかった攻撃技がある。

何が起こるかわからないからだ。それは1つ目の能力、

殺した人間の身体を再現する能力の解除である。


「だらぁぁあぁああ!!!!!」


緊急時となった今、

御巫は咄嗟に拳だけ変身を解除して化け物を殴り飛ばした。

今まで出たことない程の火力が、その化け物の腹に降りかかる。


???

「あがあぁ...ッ!!」


その後すぐに他クラスの先生がCクラスの元へやってきて、

吹き飛んだ化け物の元へ駆けつけるも、化け物は既に校外へ逃げていた。


おおとり(Bクラス担任の奴)

「逃げやがったなクソ野郎が...!!!」


枇榔びろう(Aクラス担任の奴)

「それより今はアギ魔隊への報告が先決ですよ」


尾野田(野球部みたいな奴)

「それより白雪が...!!!!」


あまりにも唐突過ぎる出来事に全員が混乱している中、御巫は...


「なんなのよコレ...!!!」


グググググ...

変身を解除した御巫の拳が、御巫を殴ろうと襲いかかる。


「変身再開...!!!!」


右の拳を必死に押さえながら、ただ必死に念じる御巫。

なんとか拳が元に戻り、いつも通りに動かせるようになった。


「やっぱりそうだ...」


御巫の中に溜まっていた違和感が確信に変わった瞬間であった。


デルタ

(へっ、気付いたカ?)


(そんな事も察せないほど馬鹿じゃないわよ)


その違和感とは...


(どんどん私の自我がデルタに侵食されていってる...!)

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