第十六話:ゴキブリ集団VS御巫紡
私
「第二ラウンドね、また吠え面かかせてあげよっか?」
漆原
「第三ラウンドでは? 一回戦目は入学試験、貴方の逃亡で僕の勝ち、
二回目は前のドッジボールで貴方の勝ちだ」
私
「それじゃ、これで勝ったほうが正真正銘の勝者ってわけね」
漆原
「そうしましょう」
こうしてCクラス最強を決める戦いの火蓋が切られた。
私
「どらっ!」
ボゴゴゴゴゴォ...!!
まずは軽く爆炎を纏った足技で漆原を牽制する御巫。
しかし、漆原は容易く四本の腕で受け流す。
漆原
「僕を失望させないでくださいよ、
まさかその程度ってわけじゃないでしょう?」
私
「軽いジャブだっての! アンタこそ私を失望させないでよね!」
不規則に拳と蹴りが漆原を襲う。
漆原
(爆炎からいきなり攻撃が飛んでくるから反射は出来ても腕や足を掴めない!
というより爆炎が無くとも動きが速い! 入学の時よりレベルが段違いだ!
ハッキリ言って強い! 僕とも肉弾戦で渡り合えるほどに!
いつぶりのこの高揚感!)
「前言撤回、手合わせよろしくお願いします」
四本の腕が不規則に、且つ高速で的確に御巫を襲う。
御巫は腕の本数の不利を爆発の火力と上がる身体能力で補って流す。
私
(漆原はとにかく怯まない! なんなのよコイツ!
ゴキブリの生命力かなんだか知らないけど、
建物が吹き飛ぶ爆発を食らったら、強い魔物でも一秒位怯むでしょうが!
生き物なら怯んどけ! にしてもこの異常なまでの
私だって疲れはしないけどダメージは負う!
漆原の打撃をまともに食らえば、その隙を一気に叩き込まれる!
比べて私の攻撃にコイツは怯まない!
どんだけ不利な状況よこの野郎! でも、それでこそ...燃えるッ!!
漆原という壁を超えた時、そこにはどんな景色が見えるのかなぁっ!)
その子供のような好奇心を持った御巫の目は、驚くほど澄んでいた。
ただその趣向故に、動きに寸分のズレが生じた。
漆原
「
そんな御巫に生まれた隙を漆原は見逃すはずもなく、
四本の腕を寸分のズレも無く全力で腕を突き出し、
御巫の腕に渾身の打撃を食らわせる御巫。
その衝撃は御巫の腕を通り越して御巫本人にダメージが入る。
私
「ぐはっ...!!」
数十メートル先まで吹き飛んだ御巫に考える暇もなく漆原の追撃が入る。
漆原
「そんなものではないでしょう!?」
漆原の連撃をバク転で躱し、足技を構える。
私
「るっさい! これでも喰らえ...!
足の中でエンジンを噴かして熱を蓄積し、
炎を優に超える超高温で回し蹴りを食らわせる。
これにより屈強で丸太のように太い漆原の腕が、
バナナの様にへし折れた。この蹴りを生み出すために、
約13秒の時間が必要となる。漆原との肉弾戦の最中、
御巫は漆原の打撃を食らった時の保険として、
13秒間脚に熱を込め続けていたのだ。
漆原
「ぐっ...ッ!」
私
「まだまだぁ!!!」
13秒溜めた熱は、僅か4秒で冷める。
その間にできる限り足技で漆原に追撃を食らわせる。
漆原
「そんな上手くいくわけ無いだろう!」
御巫の攻撃を残りの2秒間躱すことだけに全力を削いだ漆原は、
御巫の脚の熱が冷めた瞬間に脚を掴み、ビルを2棟程貫く勢いで投げた。
私
「あがぁぁっ!」
御巫はもう身体の限界が来ていたのか、動かない。
漆原
「よくここまで着いてこられましたね。でももう無理でしょう?
いくら疲れないとは言え身体の損傷は残る。
御巫さん、君の負けですよ。いい戦いでした、
久しぶりに全力が出せましたよ。尊敬に値します。
それでは、さようなら」
右腕の2本で御巫の腹を貫こうとしたその刹那ー
私
「ココ!」
漆原
「!?」
漆原の腕の勢いを更に強めて流し、地面に腕をめり込ませて、
一瞬動けなくなった瞬間、漆原の首の横に手を刺して爆撃をする御巫。
漆原
「ぐ"あ"ぁ"ぁ"あ"あ"ぁ"ぁ"あ"ぁ"ぁ"あ"あ"ぁ"ぁ"あ"あ"! ! ! ! ! ! ! 」
私
「私があの時からアンタの対策をしてないとでも思ったの?」
人間大にすれば無敵にも思えるゴキブリにも、明確な弱点はある。
"気門"と呼ばれる身体の複数箇所に空いた穴である。
ゴキブリはこの"気門"から空気を取り込んで呼吸をする。
御巫はその気門で爆発を起こしたのだ。
人で例えるなら口の中に爆発を起こされるような物である。
漆原
「何故...動"け"た...! あ"れ程の攻"撃を食らって...動け"るなど...
能"力の適"応の範"疇"を超"えて"いる"...!」
私
「能力だからだよ。実際危なかったよ、最後油断してなかったら負けてたし、
本当は新しく作った紅蓮脚でトドメさすつもりだったしね」
(実際、脱皮の力が無かったらとっくのとうに気絶してるから、
色々な偶然が重なって勝てたのは言うまでもないか)
漆原
「フン...敵わ"ないな"ぁ"...」
私
(まぁ、例え偶然だったとしても、勝つのは気持ちがいい)
悔しくも清々しく倒れる漆原。御巫はぼちぼちチームの元へ向かった。
向かった先で御巫が見たものは、仲間達が倒れ、
その横に漆原のチームの4人が傷だらけで立っている光景だった。
私
「なるほど、4対1ってわけね」
白雪
「漆原が負けたか...」
天摩
「とはいえあちらも満身創痍です、勝機ならありますよ!」
緋縅
「そうね、私と天摩さんは大した怪我は負って無いから、
囮としても動るし、誰か一人が御巫さんに攻撃を当てれば勝てるわ」
胡桃沢
「凄いねムグち! ウルテツ(漆原貫徹の呼び名)を倒すなんて、
敵だけど友達だし素直にソンケーだよぉ!」
よく見ると胡桃沢の左の顔半分が凍っている。
白雪は全身に切り傷が付いていて、緋縅と天摩には所々傷跡がある。
比べて御巫は疲れてはないが、連戦で溜まったダメージは全く癒えず、
白雪の振動による攻撃、天摩の電撃、緋縅の棘による刺傷、胡桃沢の毒、
その一つ一つが決定打となる。それほどまでに追い込まれていた。
だが御巫は滾っていた。このピンチな状況に。
天摩
「おりゃあっ!」
天摩の能力は人差し指と小指の先の間に電撃を発生させるというもの。
そして緋縅の能力は触れた物を棘のような形状にする事ができる。
実際に殺傷能力も飛躍的に上がる。それはもちろん、生物も対象である。
そして緋縅は天摩の指に触れ、指を鋭い棘状にすることにより、
指は30cm程に伸びる。つまり電撃の射程が伸びるのだ。
腕よりも1.3倍程長い射程で電撃を放ちながら御巫に近接戦を仕掛けてくる天摩。
私
「そんなわかりやすい土俵に入るほど単純じゃないっての!」
天摩と距離を置いて、中距離から爆発で倒そうとするも、
胡桃沢が毒を飛ばして牽制し、中々爆発を起こせない。
それに加えて地面から棘が生えていて動く範囲が制限される。
私
「鬱陶しいわねマジで!」
白雪
「
白雪の能力、振動の力は、腕から振動を起こすことが出来る。
その振動から起こる衝撃は、触れれば急所まで振動による衝撃が届く。
指先で窓ガラスに触れるだけで簡単に割れてしまうほどに強力な振動は、
その振動を大きくすることで一発当てればで何連撃といった衝撃を生む。
私
「隙だらけだよっ!」
胡桃沢
「それでもいいの!」
持ち前の反射で白雪の攻撃を躱して蹴りを食らわせようとするも、
胡桃沢が邪魔をする。
私
「るみちゃん、嫌なことしてくるね!」
笑顔で4人の相手をしながら胡桃沢に話しかける。
胡桃沢
「それがウチの得意技だからねっ☆」
私
「いいね! 潰し甲斐が出てくる!」
脚から爆破を起こして胡桃沢の方に飛ぶ御巫。
胡桃沢
「いけぇ〜っ!!!」
飛んできた御巫に対して毒を噴き出す胡桃沢。
私
「当たるわけが...ッ!?」
ドガァァアアァァアアアン!!!!!!
飛んできた毒を空中で爆破して吹き飛ばそうとするも、
胡桃沢が飛ばしてきた毒は可燃性であり、
爆発をモロに食らった御巫。
胡桃沢
「ウチの毒を着火させたから、能力の適応の範囲外なんだよね。
コレならムグちに爆発のダメージが入るっ、ウチ等の勝ちだねっ!」
私
「誰"の...勝ちだって? ...え"ぇ?」
御巫は、大量出血でいつ倒れてもおかしくない。それでも立ち上がる。
それは脱皮の力ではなく、御巫の意地によるものであった。
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