第十二話:3つ目の能力がキモい

庭香

「弟は気が強くて、自分の実力を信じて疑わないんだ。

 実際凄く強いし、でもやっぱり客観的見たら性格は良くなくて。

 すぐ人を見下すし、実力にかまけて勉強も投げ出すし。

 唯一の救いは、私を慕ってくれてたことかな。

 イジメからも助けてくれたしね。それで、

 弟の進路はもちろんこの学校だったんだ。弟が心配だから、

 私もこの学校に志望したの。結果は弟は不合格で私はギリギリ合格。

 弟の筆記試験の点数は酷く、面接官にも悪態を着いてたみたいで...

 実戦の試験では目の前の相手全てに戦いを挑んだから一度点を奪われて...

 それでも点数は凄く高かったんだ。でも試験終了の直前、

 私が相手してたLv.3の魔物を弟が横取りしようとしたんだけど、

 弟の攻撃を私の攻撃が相殺して...それで弟に点数が入らずに私に点数が入った。

 私が攻撃せずに弟があの魔物を倒してたら弟は合格してたし、

 何なら最後の5秒で私が弟にやられていればよかった。でも...

 あの点数のせいで、私一人がこの学校に来ることになって...

 ここに来た意味あるのかなって...罪悪感で押しつぶされそうでっ...」


涙を流しながら事情を話す庭香。


「...」


御巫も罪悪感と複雑な事情に、何も言う事ができなかった。


庭香

「あれ以来弟と目も合わせられなくて...!」


「でも私、受かったのが庭香ちゃんで良かったよ」


庭香

「何で...」


「だって庭香ちゃんじゃなかったら友達になってないし。

 るみちゃんもそう思ってるでしょ。 学校に来る理由それじゃダメ?」


庭香

「そっか...そうだね...」


強張っていた庭香の表情は少しだけ緩んだ


「でも実際mそこまで思い詰めた話をされるとは思ってなかったから、

 私も腹を割って本当のことを話すよ。私、いつ死んでもというより、

 殺されてもおかしくないんだ」


庭香

「...え?」


「う〜ん、詳しくは言えないんだけど、

 私の力はいつ暴走してもおかしくないんだよね。

 暴走したら一般にまで被害が出るって事で、

 アギ魔隊で会議にかけられてね。

 本来だったら処刑されてる可能性があったんだけど、

 恩人達が擁護してくれて、アギ魔隊の戦力になる代わりに、

 生かして貰える事になったんだ。

 だからこの学校に入れなきゃ今頃処刑されてた。

 バレたら色々面倒くさいから、二人だけの秘密ね」


庭香

「...うん!」


こうして重い話をし終え、暇を潰して午後七時半の夕食の時間がやってきた。

寮の生徒は食堂に集まりバイキング形式で夕食を取っていく。


「下民生活からは考えられない豪華な食事...

 うん、素晴らしいわね」


豪華な食事を前に目を光らせる御巫。


???

「...!!!?」


ガシャアァアアン...!!!

突然、御巫の背後の女が何かに驚いて食器を割っていた。

その時の彼女の視線は御巫の方を向いていたように見える。


(初日からやらかしてんなぁ...)


そんな事を思いながら、豪華な食事を大いに満喫した。


???

「ちょっと待ちなよ!」


食堂から自室へ帰る途中、誰かに声をかけられた。


「どちらさまですか...

 ってあぁ、さっき食器割ってた食器割り職人の!」


呼び止めた者の正体は、先程食器を割った女だった。


百目鬼菘どうめきすずな

「その呼び方はやめて!

 いいから、黙ってアタシの部屋に来なさい」


「意味わかんないんすけど...」


すずな

「理由は後で聞くから、早く来なさい!」


(何キレてんだコイツ)


状況も分からないまま渋々、すずなの部屋に連れてこられる御巫。


すずな

「さ、アンタがただの生徒じゃないことは分かってる、

 本性を表しなさい」


「はぁ!?」


すずな

「誤魔化しても無駄よこの大犯罪者。私の能力は"観察の力"。

 見た相手の能力を知ることが出来るの。相手の認知してる範囲でね。

 貴方は2個能力が2個あるみたいだけど、片方がどう考えてもおかしい。

 殺した人間の身体をコピーする。これ、貴方人殺しよね?

 その能力を自覚してるってことは、誰かを一度殺した事があるんでしょ?

 おっさんが女の子の皮を被ってこの学校に入学してるんでしょ!?

 アタシ犯罪者だけは許せないわ。

 ココは正義のアギ魔隊志望の人間がいる場所よ。

 もし貴方が御巫紡本人だったとしても、人殺しがこの学校にいて良い訳がない!」


「はぁ...」


すずな

「なっ、何よ!」


面倒くさい状況にため息をつく御巫。


「入学しなくていいならしないわよこんな所。ま、

 下民生活よりも全然楽しいから釣り合いは取れてるんだけどね」


すずな

「何を言ってるの?」


「事情はどうしても言えない。死活問題なんでね」


すずな

「訳がわからない、

 真実を話すまでアタシは貴方に付きまとうわよ!」


割りとピンチな状況に、戸惑っていた御巫。そんな時ー


音弥

「その辺にしといてやってくれないか?」


「先生!」


音弥が弁解をしてくれた。


音弥

「コイツの事情はちょっと複雑でな...詮索しないでくれ」


すずな

「納得できません! 犯罪者ですよ!?」


音弥

「はぁ...折れてくれそうにねぇか。仕方ねぇ、強行突破だ」


音弥はダルそうにすずなを自分の空間に引きずり込む。

暫くした後、音弥とすずなが戻ってきた。


すずな

「クソっ! 負けたぁ!」


「先生! 何をしたんですか!?」


音弥

「なに、罰ゲームの設定を、

 御巫の事情について詮索できないにしてポーカーしただけだ」


「そんな事まで出来るんですか...便利過ぎる...!」


音弥の能力に感心していたその時、すずなが怒る。


すずな

「詮索出来ないにしても! 私は極悪人は許せない!」


音弥

「極悪人なら教師陣は擁護しねぇよ」


すずな

「じゃあせめて納得できる理由を!」


音弥

「それが言えないから黙ってろって言ってんだ」


すずな

「くっ...!!」


すずなが言葉をつまらせたので、音弥と御巫は静かに部屋を出た。


「危ない所を助けていただき、ありがとうございました」


音弥

「別にいいが、お前も気をつけろよ」


「ところで何で私がここにいるってことがわかったんですか?」


音弥

「お前は常に軽めの監視をされてるからな。

 とはいえ部屋にいるかいないか、AIが判断する程度の奴だ。

 お前が夕食終わってから部屋に戻るまでが遅かったから、

 お前を探してたら氷村井から報告があってココに来た」


「私、監視されてるんですか?」


音弥

「いや、中の様子までは知らん。本当にいるかいないかだけだ」


「鍵があるから別によくないですか?」


音弥

「今回みたいな事が無いようにだ、身を持って痛感しただろうが」


「あっはい、すみません」


こうしてその日は終わり、お風呂に入って寝ることにした。


「ベットがフカフカだなぁ...気持ちぃぃ...?」


お風呂に入って入念に身体を洗ったはずなのに、全身がムズムズとする。


「何コレ、凄く気持ち悪い...何なのコレ!?」


布団の中でモゾモゾと身体を動かした後、自分の身体の異変に気がついた。


「皮?私の皮膚が剥がれてるの?」


その時、第3の能力が頭をよぎる。その権能はー"脱皮の力"。


「いるかそんな能力!!」


数ヶ月に一回脱皮が起こり、脱皮を成すと身体能力が上昇し、頑丈になる。


「気持ち悪!! 爬虫類じゃないんだからJKにこんな能力渡すな!」


デルタ

(しょうがねぇだロ、それがオレの能力というか体質なんだからヨ)


「何コレマジで無理! さっさとこんな皮脱いでやる!」


自分の皮を脱ぎ捨て、その皮をまじまじと見つめる。


「まぁまぁいいスタイルしてんね、私。

 ってそんな事言ってる場合か!」


中々にエロい等身大の自分の皮の処分に悩む御巫。


「こんなの男に見られでもしたら死ねるね!

 ほぼ目を瞑って髪の毛無くしただけの私じゃないの!

 ウィッグでもつければもうそれは唯の私!最悪だわ、

 ゴミとして処分するにしても怪しまれる!どうすれば...」


取り敢えず全身タイツみたいな自分の皮を、ゴミ箱の中のゴミ袋の下に入れた。


(何なのこの能力!)


デルタ

(いいじゃねぇカ、お前の身体能力の限界を引き伸ばせるんダ)


(確かにそうだけどもっとマシな形でそうして欲しかった...)


デルタ

(ゴキブリ野郎に比べればマシだろうガ)


(それは例外でしょ。

...ちなみに具体的にはどれくらいの身体能力上がるの?)


デルタ

(そうだナ...

電柱に頭を叩きつけられても頭蓋骨は折れないんじゃねぇカ?

それに能力を使わずとも拳で電柱くらいにはヒビ入れられそうだナ)


(なんで電柱で例えるのよ)

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