第七話:死ぬかもしれないわね

「これはもしかしたらイケるかもしれないわ...!!」


186点という高得点に、自信が着いてきた御巫。


デルタ

(ぬか喜びだナ)


「うるさいわね! こっち不安を消すために自己肯定感上げてんの、

 察しなよ鈍感糞魔獣ハゲ!」


デルタ

(ハゲじゃねェ! まず毛なんて生えてねぇんヨ!)


本日のスケジュールはコレにて終わり、後は結果を待つのみとなった。

その日御巫は壱番隊へ戻り、恩人に結果を報告する。


「筆記試験はまぁ...私にしては結構やれたって感じで、

 面接はテンパってダメダメで...でも実戦の試験は186点でした!」


本堂

「やったじゃん! 面接と筆記試験は形だけで無いようなものだから、

 安心しなさい。絶対大丈夫。上手くいくわ」


「慰めでもありがたいです」


本堂

「実際コミュ力がない、頭悪いくらいじゃ落とす理由にはならないわ。

 じゃ、今日はゆっくり休んで、1週間後の結果発表まで待ちましょう」


「はい!」


その日は疲れていたのでゆっくりと寝た。...そして夜が明けた!


「本堂さん、ちょっといいですか?」


本堂

「なに?」


「やっぱり私、もっと強くなりたいです。実戦の試験の時、

 隊長の弟と戦いました。結果はやれる限りを尽くしましたが...

 運で見逃してもらえたようなものですし、それに多分、

 ゴキb...漆原っていう男相手にも、逃げることしか出来なくて...

 やっぱり凄く悔しくて、入学までにアイツ等の上に行きたいんです」


本堂

「なるほどね。とはいえ私が教えられることなんてほぼ無いよ。

 私より紡ちゃんの方が強いし」


「えっ?」


本堂

「私の能力は"鼓舞の力"。戦う意志のある人の力を強めることが出来るの。

 子供でも大人に勝てるくらいの身体強化をすることができるわ」


「滅茶苦茶強いじゃないですか」


本堂

「そうね。自分で言うのも変だけど、確かに便利な能力だと思うわ。

 でもあくまで身体能力を倍加するんじゃなくて、+するのよ。

 総隊長のような化け物に私の能力を使っても誤差でしか無いの。

 だから一般兵や、能力の適応が無いアギの強化しか出来ない。

 兵力戦なら有用だけど、化け物同士の戦いに私は何の関与も出来ない。

 普通副隊長は、隊長の弱点を補う人物を選ぶのが定石なんだけど、

 天城君はなんで私を選んだんだろうね...

 ま、だからせめて私に出来ることをって、君の教育を引き受けたんだ。

 自分がこの能力ならって想像はよくしてたから、

 紡ちゃんの成長を見るのは結構楽しかったんだよ?

 でもこれ以上私に助言できることはないよ。強いて言うなら、

 身体鍛えとけとか、実戦意識して対応力鍛えとけ位しか言えないわ。

 対応力があれば、もしかしたら瞬人君や...漆原君?

 にも勝てたかもしれないし初見での対戦で善戦しやすいからね」


「対応力ですか...」


本堂

「そ。だから私が最後に提供するのは、1番隊全員組み手!

 壱番隊隊員100人ちょっとの人達全員と1回ずつ隙間時間に戦ってもらうわ」


「えぇ!?」


本堂

「というわけで今暇な隊員達に来てもらいました〜」


今暇な壱番隊隊員

「押忍!」


言われるがまま16人程度の人達とぶっ通しで組み手した。

流石全ての隊の総括の壱番隊。下っ端ですら御巫は勝率2割がいい所だった。


本堂

「本職はこんだけ実戦積んできてるのよ。能力負けしてても、

 初見に対する対応力を積めば、勝率はグンと上がるわ」


「そうですね...正直少しナメてました...」


本堂

「正直でよろしい。明日は今日と違う隊員を連れてくるわ」


「明日は絶対にもっと勝ちます!」


本堂

「その意気よ」


次の日、御巫はその強さの片鱗を見せた。


「対ありでしたぁ!!」


壱番隊隊員

「あが...が...」


本堂

「一日で下以外を含めても勝率が4割まで上がったね...何を意識したの?」


「ただ突っ込むんじゃなくて、相手の動きをしっかり見るようにしました。

 相手がしたいことをさせない動きを私の機動力でなんとか再現しました

 でもやっぱり実戦を積んだ方々には及ばない時もあります...」


本堂

「それでも上出来だわ」


結果発表まで特訓の限りを尽くし、最終勝率は6割近くまで上がった。

そして結果発表の日ー


「結果はー」


届いた封筒に、運命の合否が書かれている。不合格であればその場で死ぬ。

震えた手で封筒から紙を取り出す。


「合格だやったぁあぁああ!!!!!!」


本堂

「おめでとう紡ちゃん!!!!!」


「生きて良いんだ! 私、まだ生きてて良いんだぁあ!!!!」


本堂

「よかったね、よかったねぇ...」


ひとしきり喜びを噛み締めた後、封筒の中身の詳細を確認する。


「クラスは...Cクラス。天城さんが言ってた、

 下民とギリギリ合格の平民クラスね。制服は...悪くない。

 むしろ割と可愛いまである」


本堂

「そうね、最先端の学校だからね」


「それ関係あります? そして成績...!!

 実戦試験全体で第6位! めっちゃ上じゃない!?

 筆記試験は...平均46点...まぁ私にしては上出来ね、上出来よ。

 低めに見積もった自己採点より低いけど上出来だわ」


本堂

「...これでお別れね。寂しくなるわ...じゃあね紡ちゃん。

 楽しかったわ。また来たくなったらいつでも来てね。

 困った時はいつでも頼ってよ?」


「はい。また必ず来ます、絶対に」


こうして無事に魔学への入学が決定した。長く着けられていた首輪も外され、

入学までの期間は実家へと帰省し、今まで通りの学園生活に戻った。

明石が不合格と聞いて、少し吹き出しそうになったのは別の話だ。



それから時は4月へ移り変わる。



「お父さん、お母さん、行ってきます!」


学園では寮生活となり、実家に帰る機会は少なくなるだろう。


御巫父

「いってらっしゃい。お前の無事を祈ってるからな」


御巫母

「うん。ツムちゃんは私達の誇りだよ」


「知ってる!」


笑顔で返した御巫の目には涙が浮かんでいた。


御巫母

「口の減らない子ね、全く」


別れの挨拶を済ませ、100キロ程距離がある学校へと走って向かう。


「下手な交通手段よりコッチのが速いからね。つっても...

 私がこんな脳筋移動法を取るなんて、ちょっと前まで考えられなかったな」


走って東京までどんどん加速して約45分で完走し、校門の前で立ち止まる御巫。


「ここが新たな人生のスタート地点って訳ね」


デルタ

(何カッコつけてんだテメェ)


「うっさいわね! 人が感傷に浸ってんのに!」


みみ

「あれれぇ〜? つむぐちゃんだねぇ〜。久しぶりぃ〜」


校門の前で立ち止まっていた御巫に、剛力美々が話しかけてきた。


「みみ...りん!? 合格したのね!」

(...最後の最後で蹴落とした手前気まずい!)


みみ

「そうだよぉ〜、一応Aクラスなんだぁ〜」


「私もみみりんのお陰でなんとか合格できたよ、ありがとね」


みみ

「けっ!」


御巫がそう言うと、剛力美々は悪態をつきながら学園へと入った。


「それにしても色んな奴等がいるな〜、なんだあのバカップル」


??

瑠璃花るりかちゃんが可愛すぎる! 制服姿も似合い過ぎ!

 はぁ、好きぃ! い"い"匂い"だなぁ! こんな天使、いや女神、

 それ以上の上位存在と学園生活を共にしても罰が当たらない!?

 最高すぎる! 別のクラスであるという事を除けばなぁ!!!」


???

「それは仕方ないよ、れい君。

 でも私も礼君と一緒に学校行けて嬉しい」


??

「俺も! 嬉しい、嬉しすぎてその言葉だけでご飯200杯はイケるね」


「あぁきもきもしねしね爆発しろ」


片目が黒でもう片方が紫色のオッドアイ残念男と、

何がとは言わないがHくらいはありそうな、

多分ムッツリの紫目茶髪女がイチャつきながら歩いてる。

ハッキリ言って視界から消え失せて欲しい!


「まだ入学初日だよね?なんでアイツもう制服改造してんだよ!」


他にも忍者コスのイケメンや、胸を強調してる爆乳女、

明らか悪人面のヤツ、げっそりした不健康男、漆ゴキブリ原など、

本当にバラエティに富んだ奴等が校門前で立ち止まる私を横切っていく。

多様性とは何なんだろうと考えさせられた。


「さ、私も行きますか」


校門を一歩跨いで、御巫紡の魔学の生徒としての生活が始まる。

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