第16話 森の危機です!? その1


「ゴ、ゴローさん、その傷はどうしたのですか!?」


「オ、オイラにもよくわかんないんですわ。森の中で栗を集めていたら、突然人間から黒っぽい筒を向けられて……気がついたら、肩から血が」


 膝をつきながら、ゴローさんが教えてくれます。


 その話から察するに、彼は銃で撃たれたようでした。


 この傷でよく、ここまで逃げ帰ってきたものです。


「わ、私は家に医療器具を取りに戻ります。銀狼さんとティアナは、小川で水を汲んできてください!」


 呆気にとられている二人にそう指示を出すと、私は家に向かって駆け出しました。


  ◇


 それから道具を手に花畑へと戻ると、すぐさま治療を開始します。


 幸いなことに、銃弾はゴローさんの肩を貫通しているようで、銃弾摘出の必要はありません。


 けれど、酷い怪我であることに変わりはないので、速やかに止血処理を行い、包帯を巻きます。


「ゴローさんや、大丈夫かい?」


「いったい何があったんだ?」


 一連の処置が終わる頃になると、噂を聞きつけたのか、森の動物たちが集まってきます。


「コルネリアよ。ゴローはまさか、以前の我と同じ武器で攻撃されたのではないか?」


 騒ぎが大きくなっていくのを見て、銀狼さんが険しい表情で私に尋ねてきます。


「考えたくはないですが……おそらく、そうでしょう」


「武器……ってことは、あの村の連中ですかい?」


 多少痛みが引いたのか、ゴローさんが体を起こして村のある方角を見ます。


「い、いえいえ。猟期は終わっていますし、そもそも、手入れや銃弾の確保が大変な


 銃を使う人は村にはいません。もっぱら、弓矢です。矢なら刺さった軸が残るでしょう?」


 あらぬ誤解を与えそうだったので、私は慌ててそう説明します。彼らは納得してくれたようでした。


「コルお母さん、じゅう……って何?」


 その時、ティアナが私の服を引っ張りながら聞いてきます。


「銃というのは、火薬の力で弾を飛ばして攻撃する武器です。私も本でしか見たことがないのですが、このように構えて使うもののようです」


 そう口にしながら、私はその辺に落ちていた木の枝を持ち上げ、それっぽく構えて見せます。


「ああっ、それですわ! オイラを狙っていたのは!」


 そんな私の恰好を見たゴローさんが、驚きの声を上げます。


 加えて発射時に大きな音がすることを伝えると、ますます納得しているようでした。


やはり、彼を攻撃した武器は銃で間違いなさそうです。


「しかし、あの村の者でないとすると、誰がゴローを襲ったのだ?」


「おそらく、密猟者でしょう」


 この森は周囲を山に囲まれていますが、外から人がやって来ないことはありません。


 現に銀狼さんは一度襲われていますし、銀狼の森……なんて呼ばれているのですから、腕試しにやってくる密猟者がいるかもしれません。


「じゃあ、俺たちもいつゴローのように攻撃されるかわかんないってことか?」


「そ、そんなの嫌だよ。せっかく猟期を耐え凌いだってのにさ」


 集まっていた動物たちが口々に言い、周囲に不安が広がっていきます。


「お前たち、落ち着け」


 その時、本来の姿に戻った銀狼さんが、よく通る声で言いました。


 するとそれまでの騒ぎが嘘のように、その場が静まり返ります。


「その密猟者どもは、我がなんとかする。お前たちは安全が確保できるまで、再び森の中に隠れるがいい」


 有無を言わさぬ、凛とした声で彼は続けます。


 その迫力に気圧されたのか、動物たちはそれぞれ顔を見合わせたあと、森の中へと戻っていきました。


「……それで、銀狼さんは本当にその密猟者たちを探しに行くのですか?」


 やがて誰もいなくなった頃を見計らって、私はそう尋ねてみます。


「当然だ。ここは我の森。村の者ならともかく、よそ者に好き放題させてなるものか」


 すると彼は、普段とは全く違った目つきでそう言い放ちました。


 住処である森を荒らされ、怒っているようです。


「銀狼さん、お気持ちはわかりますが、銃は危険です」


「我は一度その武器を見ている。弾は早いが、一直線にしか飛んで来なかった。次は当たらぬ」


「確かに、銀狼さんの動きなら銃弾を避けることも可能かもしれませんが……密猟者は一人とは限りません。むしろ、複数人いると考えるべきです」


「それならば、全員倒すまでだ」


 彼が苛立ちを隠さずにそう口にした時、森のどこからか銃声が聞こえました。


「やはり、この音がそうなのだな。お前たちは小屋に隠れているといい。あそこは我の力で守られていて、安全だ」


 そう言い残すと、銀狼さんは目にも留まらぬ速さで森の中へ消えていきました。


 私とティアナは、そんな彼の背をただ見つめることしかできませんでした。

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