第5話 初めての共同作業です!?


 かまどに生えていた木を銀狼さんに引っこ抜いてもらったあと、私たちは手分けして室内を調べます。


「あ、これとか使えそうですね。こっちの毛皮も古いですが、毛布代わりになりそうです」


 すると、戸棚の奥から工具セットと動物の毛皮が出てきました。


 工具セットは建物の補修に使っていたものなのか、ハンマーやのこぎりといった道具が一通り揃っています。


 多少の錆はありましたが、どれも問題なく使えそうです。


「我にはよくわからんが、その道具を使えば屋根を直せるのか?」


「直せますよ。そうですね……穴を塞ぐ板は扉を打ちつけていたものを再利用しましょう。ついでに、窓を塞いでいる板も外してきてもらえますか?」


「承知した。外した板は先ほどの木と同じ場所に置いておけばいいのか」


「お願いします。あ、板を窓枠から外す時は優しくお願いしますね」


 そう伝えると銀狼さんは軽くうなずいて、表に歩いていきました。


 残された私は工具を手にし、天井の穴を見上げます。


 こう見えて私、大工仕事は得意なのです。


 村でも家の雨漏りは自分で直していましたし、立て付けが悪くなった扉や、足がおかしくなった椅子だって修理したことがあります。


 道具さえあれば、ちょちょいのちょいですよ……なんて考えていたとき、重要なことに気がつきました。


「はて、どうやって屋根に登りましょうか」


 室内を見渡してみるも、はしごのようなものは見当たりません。


 そのまま外に出て周囲を探してみますが、結果は同じでした。


 銀狼さんが抜いてくれた木を壁に立てかけて、はしご代わりにしようかとも思いましたが、同時に自分が花嫁衣装だったことを思い出します。


 ひらひらしすぎて、動きづらいことこの上ありません。


「コルネリア、どうしたのだ?」


 純白のドレスの端をつまみながら困り果てていると、窓の板を外し終わった銀狼さんが不思議そうな顔で私の近くへやってきました。


「銀狼さん、あなたの力で、私の服も作ってもらえないでしょうか。できたら、動きやすい服がいいのですが」


「残念だが、我が作れるのは自分の服だけだ。コルネリアは新しい服が欲しいのか?」


「いえ、そういうわけではなく……屋根の修理をしたいのですが、この恰好では作業がしにくいのです。屋根に登る手段もありませんし」


 工具と木の板を手にしたまま、私はため息まじりに言います。


「つまり、屋根の上に移動できればいいのだな? 容易いことだ」


 それを聞いた銀狼さんは私をおもむろに抱きかかえます。いわゆる、お姫様だっこというやつです。


「ひっ……!?」


 そして次の瞬間、大きく跳躍。一瞬で屋根の上に移動してしまいました。


 予想外の出来事に、私は完全に固まってしまいました。


「穴が空いているのはあそこか。コルネリア、このまま移動して構わないか?」


「は、はい。よろしくお願いします」


 彼は私を抱きかかえたまま、地上にいるのとまったく変わらない足取りで歩いていきます。


「というか銀狼さん、右足を怪我していましたよね? そんなに激しく動いて大丈夫なのですか?」


「人の姿であるし、本来の力の半分も出してはいない。心配は無用だ」


 彼はあっさりと言い、ゆっくりと穴の近くまで移動していきます。


 それから慎重に私を屋根の上へと下ろしてくれました。


「わっ……とっ」


 その不安定な足場にバランスを崩しそうになり、私はとっさに銀狼さんに抱きついてしまいます。


「す、すみません。いつもなら靴の裏に滑り止めを塗るのですが」


「気にするな。このまま作業をして大丈夫か?」


「ま、万が一落ちたら危ないので、支えておいてもらえると助かります」


「わかった」


「ひゃあ!?」


 そうお願いすると、彼は私の腰に手を回し、後ろから抱きしめるようにしてきました。


 あ、あわわ。銀狼さんの体温が伝わってきます。というか、初めて男の人に抱きしめられました。


「ちょ、ちょっと、いきなり抱きしめられたら困ります」


「困るのか? その道具を使って作業をするのだし、両手は空いていたほうが良いと思ったのだが」


 なんともいえない気持ちになりながらそう口にするも、銀狼さんの言い分も一理あります。


「うう……わ、わかりました。しっかり支えてくださいね」


 正直、かなり恥ずかしいですが、誰に見られるわけでもありません。私は必死に気持ちを落ち着かせ、そのまま作業をすることにしました。


「穴は三箇所あります。見たところ、どれも簡単に塞ぐことができそうなので、まずは目の前の穴を塞いでしまいましょう。銀狼さん、もう少し前にお願いします」


 背後の銀狼さんにそう指示を出して、ゆっくりと移動していきます。


「……おお? 銀狼様、そんな場所で何していらっしゃるの?」


「仲がいいですなぁ。これはもしや、お付き合いでも始めなすったか?」


 慎重に歩みを進めていた時、謎の声がしました。


 見ると、煙突の先端に数羽のキツツキが止まっていて、私たちに話しかけてきました。


「我は彼女を妻とした。これからここで、共に暮らすのだ」


「おお……! まさか人間の娘をめとられるとは!」


「彼女はただの人間ではない。我らの言葉を理解し、怪我をも治したのだ」


「ひえー! それはまるで、森の聖女様ですな!」


「だ、誰が聖女ですか! 私はただの獣医です!」


 思わず叫ぶと、より一層鳥たちがざわめきました。実際に言葉が通じていることに驚いているようです。


「なんにしても、森の主たる銀狼様が妻をめとられるとは! これはめでたい!」


「すぐに森中に知らせねば!」


「お前たち、あまり大事にするでないぞ」


 銀狼さんがそう言うも鳥たちは聞く耳を持たず、そのままいずこへと飛び去っていきました。


 そんな彼らを呆然と見送ったあと、私たちは屋根の修理を再開したのでした。


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