第23話


着いたコインランドリーは、大型の乾燥機一台だけが低い音をたてて回っていた。

 

 

そのすぐ脇に新聞配達のジャンパーを着た茶髪の男が、項垂れながらスマホに目を落としオットマンに座っていた。

 

 

 ブレザー以外を洗うつもりだったので時間は大して掛からないだろう。

 

 

ブラウスとスカートと下着とソックスを洗濯乾燥機に掛ける。

 

 

 洗濯の間に男は居なくなり、代わりにファー付きの黒いダウンに上下灰色のスウェットという、前時代的な深夜のコンビニにいそうな中年女がスマホゲームの音を響かせていた。

 

 

やがて、乾燥まで終わると、私はホカホカの衣類を全て取り出して、皺を伸ばしてから丁寧に畳んでスクールバッグバッグにしまった。

 

 

 最後にここに来てやろうとしていた、ある意味洗濯より大事なことがあった。

 

 

 私はバッグから財布を取り出す。

 

 

現金は何かと必要になりそうなので、全てを取り出して洋服のポケットに入れる。

 

 

そしてあの男の名前入りのクレジットカードだけが入っている事を確認して財布を洗濯カゴの底に入れ、折り重なる他のカゴの中へ戻した。

 

 

 これで、財布を誰かが拾ってくれればそれは自動的に警察に届くだろう。

 

 

あるいは紛失しても構わない。

 

 

クレジットカードなら、不正使用が厳しくセキュリティされている以上は無傷で返ってくる可能性が高い。さらに不正利用ならそれこそ私にとって都合がいい。

 

 

私にとって、財布を落とす事で発生する現金の消失という可能性が重要だった。

 

 

こう言う場合、財布は見つかっても現金が入っていない可能性が大いに期待できる。

 

 

財布を警察に届けてくれた者以外に、現金だけ抜き取られた事にすれば、私が現金を使った事を隠匿できる。

 

 

つまり、あの男に現金の消失を、事実を証明しながら説明できればいいのだ。

 

 

二日も家に帰らなかった非行少女に対してのあの男の怒りは想像にたやすく、酷く悍まい。

 

 

しかし、私は結局、もうすぐ奴と対峙しなければならない。

 

 

そして、失敗した後に残されるこの子のために備えなければならない。

 

 

工作した情報は全てあの子が残したあの痛ましい日記に記してある。

 

 

私は、毅然と顔を上げて未だ呑気にスマホゲームの音を店内に響かせる中年女のいるコインラドりーを後にした。

 

 

久志とのデート後、今着ている服は漫画喫茶を出たら全て捨てるつもりだったし、余った現金は募金箱にでも入れるつもりだ。

 

 

約束の時間まであと少し。私は小腹を満たそうとコンビニで軽食を買い漫画喫茶に戻る。

 

 

 途中、ショーウィンドウに映る自分の姿を見て私服にスクールバッグの組み合わせと言うのがとてもアンバランスだった事に気づいた。

 

 

私は思わず苦笑いを浮かべた。でもまあいい。鞄を間違えた事にでもすれば、天然というレッテルが新たに付くかもしれない。

 

 

 白い息が登る。

 

 

昼を過ぎて一層濃くなった雲は街を薄く暗く包んでいたが、クリスマスムードの街は、軒先を彩る様々な店のイルミネーションの灯りと、浮かれた人々の笑顔で輝いていた。

 

 

目の前をブランド店の小袋を下げたカップルが肩を寄せ合いながら通り過ぎた。私だって、今夜は久志と…。

 

 

 漫画喫茶の受付で外出から戻った事を告げる。

 

 

外出時にはいなかったオールバックの店員は、何かを言いたげに私を見ていた。

 

 

女子高生姿だった私の姿をどこかで見ていたのだろうか。あるいは、やはりスクールバッグと私服のアンバランスさに違和感を覚えているのか。

 

 

 部屋に入り、鍵を閉めると重力に任せるように肩からスクールバッグを落とした。

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