再び狭間の話

マイケルとアキラ

 オレを『炎の獅子』が飛ばした。また真っ白な世界に飛ばされてきた。

 明るく、白く、見渡すかぎり何もない。

 あの『炎の獅子』が出した難題をまだ解決していない。

(これで、現代日本異世界に着く。その前にやらないといけない)

 頭上を見た。2回目だから、あれがやって来るのは予想が付いている。

 黒い点が落下してくるのが見えてくる。

(ウラベ・アキラだ!)

 自分は上昇し、あっちは落下している。

「あっ!」

 あちらもオレに気が付いたようだ。

(通過する僅かなタイミングが勝負だ!)

 オレはあることを考えていた。

 それは――

「今だ!」

 すれ違う瞬間に、彼女の脚を掴んだ。ギリギリだった。

 顔が目の前に通った瞬間、手を伸ばし、ようやく足首を掴むことができた。

 重たい……いや、移動している物体を掴むのは、タイミングもかなり難しい。

 彼女の足首を浸り手で掴んだまま、右手を伸ばし、相手が伸ばした手を掴んだ。そして、ウラベの体をひっくり返して、自分の顔の前へと向ける。これによって、オレとウラベは上昇も、落下することなく、その場でクルクルと回っているだけだ。

「あんたが、マイケル?」

占部洸ウラベ・アキラだな!」

 あの『炎の獅子』との交渉後のことを考えていた。恐らく、こうして再び、ウラベ・アキラと体を入れ替えるのではないかと。

 前回、この世界でウラベと遭遇した。ほんの一瞬の出来事だったが、声も聞こえたし、息づかいも感じた。ほとんど賭けであったが、掴めるのではないか、と――

「あなたに、言いたいことがある。知らない人間を巻き込まないで!」

 と、ウラベはまくし立てるように声を上げた。

「それは悪いと思っている。オレだって、あんたと入れ替わるとは判らなかったんだ」

「――学校は停学になっているし」

「悪いとは思っている」

「――成績を勝手に上げて。おかげで留年しないで済んだけど……」

「それは……お前がもっと勉強しろ」

「――妙な友達を作ってくれて。ああいうお節介は嫌いなのよ」

「誰? ああ、一夜魔女のことか?」

「――馴れ馴れしいし……それに、何? あのバケモノは……

 なんであたしが、バケモノ退治を手伝わされなくちゃいけないの? 魔法も使えるし」

 1週間ほどだと思うが、あちらの世界でも何かが起きているようだ。

「それだけ知ればいい。オレが何とかする」

 そのために、彼女と話した。異世界に飛ばされる前に、情報が欲しい。

「何とかするって……またあたしは、あなたに身体をかせってこと?」

「そういうことになるなぁ」

 あきらかにイヤそうな顔をした。

 だが、それしか『炎の獅子』の試練をクリアできないだろう。

 オレは必要なことを聞くと、ウラベの身体から手を離した。再び現代日本異世界にいくために……だが、オレが手を離し身体が離れて行く瞬間、彼女はオレの足首を掴んできた。

「いかせない。あなたは自分の世界をなんとかしなさいよ!」

 クルクル回転したまま……不意を突かれたものだが、どっちが上で下なのか判らなくなってきた。

「オレに任しておけば!」

「もうあんたの世界じゃないの。自分の世界を助けなさいって言っているのよ!」

「そのためには、あっちにいかないと!」

「そんなこと知らない!」

 ウラベがそういって乱暴に振り回した。

 それまで気が付かなかったが、出口であろう黒いインクのシミが、すぐ目の前に迫ってきていた。

 それもふたつ。

 どちらかがオレの世界で、どちらかが現代日本異世界なのだろうが……見極める前に、オレとウラベはその黒いシミの中に吸い込まれて行った。

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