獅子との対面

 霊廟の中は薄暗く、静かであった。外の声も音も聞こえない。

「しばらく籠城ですかね?」

「アイツら諦めて帰ってくれないかなぁ……」

 霊廟の入り口へ、ゲイツとナナはへたり込んでいる。少し緊張の糸が切れて、力が抜けたのかもしれない。

「オレは……『炎の獅子』に会ってくる。もし、次に会うときは、あの話していた異世界のウラベ・アキラかもしれないから――その時は、頼んだぞ!」

「戦闘力は変わらず……でも経験値は無しで、状況把握もできないなんて――」

「アタシ達が人間に指示できるのよ。面白そうじゃない」

 ナナがニタリと笑っている。確かに、人間と獣人の関係を考えたら、主従関係が逆転することだ。面白いかもしれないが……オレの身体で試すな!

「頼んだぞ!」

 少し不安もあるが、オレは霊廟の奥へと向かった。


 前回来たときの記憶は……曖昧にされているが、家宝の短剣をどう使うかは覚えている。

 霊廟の奥。そこには『炎の獅子』のレリーフがあった。口の部分に隙間がある。

 そこに短剣を挿すのだ。

「これでいいはずなのだが――」

 前回は光があふれたが、今回は始まらない。

「おいッ! 『炎の獅子』。オレは、お前に会いたいんだ!」

 再び短剣に手をかけ、ガチャガチャと動かしてみた。

 すると、思い出したかのように柄の獅子の紋章が光だし、視界を被って行く。あまりのまぶしさに目を閉じてしまった。


 どれだけ経ったか……そろそろかと思い、目を細くして開けると、あの白の世界にいた。

 そして、今回は珍しく翼を持つ獅子が目の前にいる。

「『炎の獅子』!」

「――何をしている我が子孫よ」

 にらみを利かして、獅子は顔をオレに近づけてきた。

「あんたに聞きたいことがある!」

「我が子孫よ。『世界を救う』事はどうなったのだ?」

「そのことだ。魔王はどこにいる?」

「魔王だと?」

「そうだ。魔王を倒せば……」

「世界が救えるとでも思ったか?」

 あきれるように獅子は呟いた。

(魔王を倒すことが、世界を救うことでない!?)

 オレの考えは間違っていたのか?

「我が子孫よ。魔王とやらは、通過点でしかない」

「通過点――」

「世界を荒らそうとしているのかもしれないが、魔王を倒しただけでは、『世界は救う』ことは出来ない」

「教えてくれ! だったら『世界を救う』にはどうしたらいいんだ」

「考える事だ。何が世界のためになるのか――」

「考えても判らないから、あんたに聞きに来たんだ! 前の非礼は謝る!」

「我が子孫よ。何故、私があの世界に送ったのか、考えたか?」

「あの異世界に――」

 そういえば、そんなこと考えても見なかった。

 異世界に送られた理由……確かに、理由も無しに現代日本異世界に送られるはずもない。

「――救うべき場所……世界とは、あの異世界のことなのか?」

 と、恐る恐る聞いてみた。

「そうだ。我が子孫よ。それなのにお前は戻ってきた」

「何も解らなかったからだ」

「あの世界のバランスが崩れかかり、お前のいう『魔王』も誕生しようとしている」

 異世界側で、魔王が現れる。あのオレが倒した、オークのようなゴブリンのような生物は、その変調の表れなのか?

 判らないことかたくさんある。だが、この世界では答えが出せないことだ。

「――『炎の獅子』。もう一度、あの世界へオレを送り込んでくれ」

「……」

「頼む!」

「……」

 獅子は応えなかった。

「――オレがあちらの世界にいくと、あちらの世界のウラベ・アキラが、こちらの世界に入れ替わるのか?」

「何も知らぬ少女に、また危険を冒させることは承知しているか?」

「それは――あんたが勝手に決めたことだ! 何故、あの子を選んだ」

「我が子孫よ。依り代となる少女は、お前と共鳴できたからだ。お前が再び、あの世界にいくというのなら、あの少女の身体を依り代としなければならない」

 結局、オレのワガママに付き合わされているのか。見ず知らずのウラベ・アキラは――

「――あっちの世界は、このままだとどうなる?」

「混乱に陥る。世界は救われないだろう」

「それは――オレが力を欲したからか?」

 オレのワガママは、世界を陥れるように聞こえた。結局、オレが『『炎の獅子』』の力を欲しなければ、あちらの世界は変わらず平和だったのかもしれない。

「我が子孫よ。それは半分正解で、半分間違っている。

 時期は違えど、あの世界はゆっくりと混乱へ向かっていた」

「それは……オレが早めたって事か?」

「――それは分からない」

「獅子よ。向こうの世界の住人達に、世界を救うことは出来るのか?」

「それは――判らない。苦労するであろう」

 獅子は首を横に振る。

 どのみち、オレは……この世界には居場所はない。ナナもゲイツ一時的なことであろう。だとしたら、異世界で居場所を作っても――

 そうは思っても、入れ替わるウラベ・アキラはどうなのだ。確かに、あいつも自分の世界に居場所がない。この世界へとやってきて、上手くやっていけるだろうか――

「我が子孫よ。もう一度いく気はあるか?」

 もう一度、異世界へ――

 オレの原因であちらの世界が混乱するというのなら、始末は付けるべきだ。

「どうする?」

「ひとつ頼みたい。あの宝剣だけでも持たせてくれ」

「よかろう――」

 オレの身体はフワリと浮かび、光の世界へと進んで行った。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る