炎の獅子の力

 ヤツの火炎放射が、俺に襲いかかってくる。だが、オレが突き出していた家宝の短剣が何かを発動した。

(炎の魔法を吸収している!?)

 火炎放射の炎が、短剣に吸い込まれて行くではないか!

 とっさにそう思ったが、吸収と言うよりも剣にまとわりつくように、火柱が伸びて行く。

(こんなこと出来るのか?)

 それは元の短剣よりも数倍の長さになった。鞭のようにしなり、そして、オレはヤツの脳天から振り下ろした。

 ヤツも負けじとロングソードで受け止めようとするが、その高熱の鞭は鉄を簡単に切断し、地面へ叩きつけられる。

「……ッ!」

 さすがのオレも、かなりのグロさに気分が悪くなった。

 炎の鞭は、バッサリと身体ごと真っ二つにしてしまったのだ。

 左右に元、人間の肉片が倒れ込む。

「強すぎる――」

 これが家宝の短剣の……いや、『炎の獅子』の力なのかもしれない。

(下手に使うものじゃないな――)

 今回は相手の火の魔法で発動した。ということは、オレ自身の魔法でも可能なのかしれない。だとしたら、手に余る力だ。

(たしか……『獅子は、余計な暴力は使わない』そんなこと言っていた)

 余計と言うよりも、有り余りすぎる力だ。だからこそ制御が必要なのかもしれない。

 オレとした事が自分の使った力に、ビビり、右腕の震えが止まらない。

「ちょっとやり過ぎじゃないの?」

 どこかで隠れていたびょう族のナナが現れる。

 こいつもいい加減なものだ。とっさに左腕で右腕の震えを抑えながら、

「お前、どこへ行っていたんだ?」

「他に敵がいないか、周りを見にいってあげたんじゃないの」

「それなら――」

 後方に待機していたけん族のゲイツが、クンクンと鼻を鳴らして首をゆっくりと振った。

 オレのような人間以上に、この種族は鼻が利く。

人気ひとけはないようですか?」

「アタシしらだって、鼻は負けていないですから。霊廟の周り隅々まで、臭いでは判らないでしょ? アナタ達は鼻に頼り過ぎよ」

 ゲイツは気に入らないのか、ムッとした顔で、

「――それで、いたのですか?」

「いませんでした、この……今は死体か。このあたりには、この人だけみたい。だけど――」

 と、ナナは後方、先程のここまでの道のりを見た。ゲイツもそれにあわせるかのように、後方を見る。

「後ろから追いかけてきているみたいですね。ナナは手の方は大丈夫?」

「ナイフぐらいなら持てるけど……メイドさんは?」

 ふたりは戦う気なのだろうか? オレの追っ手に対して。

「お前らにやらせるわけにはいかない!」

「では、ご主人様はどうしろと?」

 とっさに、霊廟を見た。硬い石の扉で出来ている。最近動かした跡もあるので、動くはずだ。

 オレが『炎の獅子』と対面した時のものか。

「一旦、霊廟の中に隠れよう」

「あら、アナタにしては珍しい」

 ナナが皮肉っぽく言う。確かに、珍しいかもしれない。だが、自分の出せる今の力が、あんなにも凶暴であるのなら……さすがに尻込みしてしまう。

(あまりにも人を殺しすぎる)

 オレは、力が欲しいとは思ったが、殺戮をしたいというわけではないのだ。

「いくぞ!」

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