自由への道2

「ナナちゃん。勝手に出てきちゃダメだろ!」

 管理室。オレ達の姿を見るなり、男がニタニタ話しかけてきた。

 ここは奴隷商人の在庫保管庫だと、ナナは言った。だとしたら、管理していないといけない。

 こうして牢屋から出られたとしても、逃げ出されない対処は必要だ。簡単な方法……出入り口をひとつにし、そこに管理する詰め所を置く。脱出対策も楽だし、在庫管理も出来る。

 奴隷商人の本人はいるのかはすぐに判らなかった。手下共がこの部屋に何人いるか……男の汗臭さと、生臭い臭いが充満していた。

(この先が出口だな。それよりも――)

 案内させていたびょう族のナナが、迷いもせずにここに着いたことについてだ。

「アタシは、もうヤなのよ! あんたらの相手なんて!」

「爪を切り落としたぐらいじゃ、お仕置きにはならなかったかな?」

 ふたりめの男が声を上げた。ひとりだけでソファを占領し、片手でナイフを持って自分の爪を弄っている。

「そッ、その女を含めて、あッ遊んであげるねぇ~」

 影から3人目。樽のような腹の巨漢が、重たい身体を揺らし、こちらに近づいてくる。他にいないか確認しようにも、この男に邪魔されて判らない。

(まあ、察するに慰みものにでもされていたか?)

 奴隷商人はとして、詰め所の手下に、猫耳族のナナを与えていたと、とれる。

 今でも軍隊とかで人間や獣人の女を、男共のにするために、連れているところがあるという。ただ、彼女は抵抗して、爪を切り落とされた。

 そして、たまたまオレが入るはずだった牢屋に、先に入れられていた。

(まあ、助けたついでだ!)

 ナナを助ける義理はない。

 オレとしては、早いところここから出て、この2週間あまり……ウラベ・アキラがオレと入れ替わっていた時の状況を確認したい。

「邪魔だ。オッサン」

「なぁ~に?」

 オレは目の前に立ちはだかる巨漢の腹にパンチを叩き込んだ。だが、脂肪とその下にある硬い筋肉でビクともしない。

 全く聞いていない感じだ。

「てッ、抵抗する~の」

 しかも妙な力を込めて、食い込んだ右手を腹の肉で挟み込んでしまった。

 突かさず左足で、股の間を蹴り上げようとしたが、こいつの太ももがデカく届かない。さすがに股の間に足が挟まれることはなかったが――

(やりにくいッ!)

 あまり相手にしたことのない相手だ。が!

「うッ、ウキャァ!!」

 巨漢が赤児のような声を上げてぶっ倒れた。

 それもそうだ。

「気持ち悪いんだよ。汗でヌメヌメしているし!」

 右の拳に宿る炎の塊。腕が肉の鎧に挟まれているのなら、それごと焼いてしまえばいい。

 安い肉が焦げ付く油の臭い……ひどい臭いが部屋に充満する。

 内蔵まで焼かれ、穴の開いた腹を、両手で弄っているがそれで治ったら苦労はしないだろう。

 激痛にもだえ苦しむのをよそに、

「ぶッ殺すぞ! アマっ!!」

 ソファに転がって男が、ナイフを投げてきた。

(体勢の悪い投げナイフが早々当たるかよ!)

 避けるのは簡単。後ろの壁に当たって、床に転がるのを素早く拾い上げた。

「この野郎ッ!」

「悪いなぁ。オレは女だ!」

 最初にオレ達を見つけた男目がけて、ナイフを投げる。

「こうやるんだよ!」

 ナイフが空中を走り、喉元を貫いた。これでふたりめ。最初に確認した3人のうち残りは、ソファの男だけだ。

「なんなんだ! あんたは!?」

「知る必要はないだろ?」

 両手をあわせて魔法で火球を作ると、男に投げつけた。

「どうせ死ぬんだからな! 火炎弾ファイヤー・フラッシュ!!」

 別に魔法の名前を叫ぶ必要はないが……気分の問題だ。

 火炎弾は、最後のひとり目がけて飛んで行き、ソファごと炸裂した。

 一応、確認できた詰め所の人間は片付けだが――

「マイケル。少しやり過ぎじゃぁ……」

 ナナが少し退き気味な気はしている。だが、

「手元に何もない状態で、これ以上、何をしろと!」

 今あるのは、薄っぺらな服と身ひとつ。加減など出来るはずがない。

 実質今日で、3人……いや、俺を襲おうとしたヤツは助からないだろうから、4人は殺した。

 これまでに人を殺めたことは幾人とも。ただ1日ではこんなに殺めたことはない。

 しかし、悪い気は起きなかった。

 だいたい、ここにしたのは奴隷商人の手下だ。どのみち、真っ当に人生を終わらせられるような事はないはずだ。

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