自由への道1
牢屋のカギ束は、痩せぎすの男がカギ穴に挿したまま、気を失っている。
隣の牢屋から「助けてくれ」と、声が聞こえたが、脱出するのには人出が多いのは面倒だ。
オレは「好きにしろ」と、カギ束を投げてきた。逃げるなり、そのままいるなり自分達で考えるだろう。
ナナと名乗った
俺が連れてこられたのも同じ道のはずなのに、「なんで覚えていない?」と不思議がられたが……
ここは適当に言いくるめて、ナナに先導させた。
それに、無駄口を叩くだけの余裕はある。
「女なのにマイケルだなんて……変わっているわね」
(洞窟内で話すと、どこに響いて他の奴隷商人や手下共に聞かれるか判ったものではない)
こいつの手枷を外したとき、グルグル巻きにされた包帯の中を少しだけ覗いた。すると、血まみれの手が隠れていた。
ナナは「ホントいうと、痛くて指も動かせない」らしい。
猫耳族特有の鋭い爪が全部切り落とされて、自分の血で汚れていたのだ。
オレの記憶では、人間の爪とは違い、血管が繋がり武器としても使えるかぎ爪だ。拷問で人間の爪を剥がす事はあるが、人間の以上の苦痛であろう。
しかも、それを薄汚い包帯だけで治療跡も見受けられない。
オレが回復の魔法が使えればいいのだが……あいにく使えない。炎と癒やしとは相性が悪いようだ。
(
人の貞操を平気で奪おうとした連中だが……それと怪我をさせるのとは、違うような気がする。奴隷として売るのなら――
「そういえば、王都にマイケルって
聞き捨てならないことをいだ出した。
(危ないってどういうことだ!?)
「何だっけ? そうそう『赤毛の魔女』って言われているらしいけど……
あんたも赤毛か――まさか、あんたが噂のマイケル?」
「……」
「王都の貴族様が、こんなところにいるなんてあり得ないわよね」
と、笑っているが……王都にマイケルなんて、かなりの人間がいると思う。だが、女とならばグッと少なくなるはずだ。
つまり、オレのことじゃないか!
薄々気が付いていたが、『赤毛の魔女』なんて何でそんなあだ名が付いているんだ!?
赤毛からか……そもそも、オレが何で『魔女』なのだ!
確かに、オレの産まれたマーティン=グリーン家は、武勇にすぐれた家系であった。
クソ爺がいるときまでは――
家督を継いだ親父は、「これからは武勇が国を支えることではない」と、剣をペンに持ち替えて、政治家になった……だけど、それが引退していたクソ爺と、親父の亀裂をますます深めることとなった。
その結果が、オレ、マイケル・マーティン=グリーンだ。
女しか、跡継ぎがいなかったのだ。
男の養子をもらって、という話もあったそうだが、クソ爺が「血を絶やしてはならぬ」と、断った。それもこれも、自分の家系が『炎の獅子』の末裔であるからと――
クソ爺がまだ強かったから、親父も強いことは言えず、オレを
来る日も来る日も、武術に魔法に……自分の持てる戦闘能力を幼いオレに叩き込んできた。だから嫌いだった。
あのクソ爺のおかげで、オレの幼い頃の人生は、戦闘の稽古に明け暮れた。自分が勇者と共に、魔王を倒したかどうか知らないが……何十年前の話を、ずっと自慢していた。
そのクソ爺が死んだのは、オレが15ぐらいだった。
親父も親父で、居なくなった途端、威張り散らし、愛人――薄々知っていたが――と早々に結婚までする。
でもって、オレが邪魔だからと、女子の寄宿学校に放り込んだ。
オレはその寄宿学校で問題児と見なされていたが、名家のマーティン=グリーンの娘だ。下手に退学処分にされることはなく、卒業までの6年間をすごした。途中何人も、結婚等で学校を去ったヤツもいたが……オレには関係ない話した。
「まあ、『赤毛の魔女』がメソメソ泣いているわけないか――
それとも、あれは油断をさせるため?」
しかし、ナナに、それを説明する義理はないだろう。
「それを話してどうするんだ?」
「いやぁ~……待って、そろそろよ」
先程までロウソクの薄明かりで照らしていたが、洞窟の先には他の光が漏れている。
「出口ッ!」
と、ナナが言うが……
「そうだな……詰め所か?」
「えッ!?」
「知っているくせに何、驚いている?」
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