魔女の住処1

 エレベータに乗って最上階の5階へ。そこでようやく魔女・一夜いちやはフードを取り、姿を現した。助けてもらったときはあまり気にしていなかったが、フードの付いたローブ。その下にあの理化学準備室で見た巨大なリックサックを背負っていた。

「ちょっと聞きたいんだけど――」

「何ですか?」

 リックを床に置くと、カギの束を取り出し1枚のドアノブに挿そうとしている。

「ここがお前んち」

「ええ、この階がウチですが?」

「5階ごと? ひょっとしてこのマンションごと……」

「はい。正確には、このマンションと隣の2棟も……」

 入り口に『コーポOCHIAI』などと書かれていたのは、本当にこいつの家族のものだったのか!?

(てことは、結構なお金持ちの子だということか?)

 てっきり、魔女なんて人知れず住んでいるものだと思ったが……オレというか、ウラベ・アキラよりも確実に、いい生活をしているようだ。

(家の人はいないのか? 両親とか――)

 気になったのはオレ達が部屋に入った時刻だ。

 すでに12時に近い。ウチの親――ウラベの――なら、小うるさく言うところだが、一夜のことは大丈夫なのだろうか?

 中に入ると薄暗い。

(誰もいないのか?)

 人の気配はしなかった。が、廊下の一夜が明かりを付ける。

 見渡すと、マンションのオーナー宅だからだろうか? 一軒家の平屋並みに広い感じがした。間取りも好き放題だろう。

「偶然でよかったです。父は仕事で出張中。母は魔女の会合に出ていますので、当分帰ってきません」

「そうなのか?」

 廊下を進み、彼女の個人部屋に案内された。

「適当に座ってください」

 といわれたものの……部屋はガラクタばかり。ベッドには唯一、彼女が横になっていそうな空間が空いており、左右を難しそうな内容から漫画本までが乱雑に積み上がっている。腰掛けられるのはそこぐらいだ。

(地震が起きたら、崩れて埋もれるぞ)

 一夜の方は、作業机らしいところにある回転イスに座り、クルリと身体を向けた。

「どうして、オレが魔法を使ったと判った?」

「――日本中に実は魔法探知の結界が張られています。魔法は恐ろしい武器になりますから。誰かが使えば反応して、最寄りの魔女に……この場合は、アタシのところに連絡が入るんです」

「またLINKか?」

「元々、そのためのアプリですから。魔女とかの認識していない人達に使ってもらってるのは、非常時にでも正常に動くか確かめるためです。

 それよりも、どうして魔法を使ったのか、説明してもらえませんか?」

 と、言われてもどこから説明したものか――

 パパ活で男を引っかけようと、繁華街で警官に声をかけられた。それに連れられたのが路地裏で、見知らぬ獣人に襲われ、仕方がなく魔法を発動した……あらましは、こうだけど、全部話すとこの魔女に退かれる気がしてきた。

「何か、悪いことでも?」

 この魔女、部屋は汚いけど、私生活はいいところのお嬢さんだ。

 異世界のオレが『パパ活』などと、非合法のことを……って、なんで知っているんだ?

 そもそも、そんなやり方を知っているウラベは――

「――裏の世界の治安維持がどうとか言っていたな。こんな獣人を知っているか?」

 話を誤魔化すよりも、話の主導権をこちらにする。そうすれば、『パパ活』をしていた事を、ばれずに済むのではないか? そう、オレは話を切り出した。

 そして、魔法で倒したオークのような、ゴブリンのような獣人について特徴を話す。

「何ですかそれは!?」

 反応から見て、魔女も知らないようだ。

「オレを喰おうとしていた。それを操っていたのは警官だ」

「警官がそのバケモノを!?」

「オレは喰われそうになったから、お前が渡してくれたガラス瓶を使ったんだ」

「それで魔法を使ったと……で、死体は?」

「えッ、死体?」

 そんなところまで気が回るはずがない。警官に銃を突きつけられたんだ。

 オレは火炎弾ファイヤー・フラッシュをぶつけて、逃げてきたのだ。

「そのままなんですか!? ちょっと待ってください!」

 と、一夜はスマホを片手に部屋を飛び出した。

 どこかに連絡を付けるのか、オレに話を聞かれないようにするためなのかもしれない。

 まあ、オレにとってこの世界は部外者だし――

「――とりあえず、上に連絡してきました。

 もう処理チームが到着しているそうですが――」

 再び一夜が戻ってくる。

 あきらかに怒っているか? だが、「もしもの時は使え」と、渡したのはお前だろ?

「警官がひとり怪我をしているそうですが、何か思い当たる節は?」

「まあ、オレに銃を突きつけてきたはなぁ……」

「アナタ、何したんですか!?」

「――だから、正当防衛になるだろ?

 急にバケモノに喰われそうになるは、銃を突きつけられて、少女は混乱した」

「アナタが言っていると、腑に落ちないですが……これ以上、アタシの仕事を増やさないでください!」

「努力するよ。この世界から、おさらばできたら――」

 ウラベのパパ活あのことは誤魔化せたと、確信をした。

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