蘇った記憶2

 高校に登校すると、魔女・一夜いちやがいそうな理化学準備室にいってみた。

「なんでスカートの下に、今どきジャージなんて、穿いているんですか?」

 すると、オレの顔を見るとそんなことを言うではないか。

 確かに、登校中に他の生徒から妙な目で見られていたことには、気が付いていた。が、そんなに変な格好だろうか?

「この世界の学生は、こんな恥ずかしい格好しているのか? いや……ウラベは、スカートを自分から短くしていたようだけど――」

「まあ、慣れましょう。ともかく、ジャージは止めて体操服の半ズボンがあるでしょ?」

「あれを履くのか? どっちも下がスースーして――」

「下がスースー?」

「歩いているときに見るだろ? ペチコートがないのかこの世界は――」

「下が見る? あッ、占部さん?」

 一夜はゆっくりと、目線をあげて行く。それはあたしの鎖骨あたりで止まった。

 そして、言葉を選ぶように、

「下着はどうしているんですか?」

「えッ? ウラベの記憶にあわせるの面倒だったから、起きたときのまま……上からセーラー服、着ただけだけど――」

「ブラとかは……」

「何それ?」

 途端、一夜の顔が真っ赤になった。

 そう寝起きのまま制服を着ていた。

 そういえば、あたしは寝たときに付けていた、タンクトップとショーツのみ。

「ともかく、占部さん体操服を、着ましょう! アタシ、出ていますから」

「なんでだよ……」

「痴女、認定されたくなければ!」

 と、一夜は部屋を飛び出していた。

(面倒くさいなぁ……)

 とはいっても、肌寒い感じがしていた。正直言って今日の朝から、この世界の日常週間が曖昧だ。ウラベの記憶が、元のマイケルオレとの記憶と入り交じっている所為かもしれない。

 まあ『体操服』というのは、今日持ってきていたカバンの中にあったので、セーラー服を脱いでそれを着込む。半袖、半ズボンなので、やっぱり肌寒い。ジャージとかいう長袖とズボンを穿き、再びセーラー服を着込んだ。

「そろそろイイですか?」

 少しドアを開けて、一夜が覗いているようた。

 すこしはマシな格好になったのか、確認すると彼女は再び入ってきた。

「それで、砂時計の効果はどうでしたか?」

「ああ……」

 それを話しに来たのだ。

 手短に彼女に説明する。

 行く気のなかった祭りで、かがり火が倒れ込んだこと。

 異世界の住人で、マイケル・マーティン=グリーンということ。

 そして、肝心な『炎の獅子』の試練のこと。

 途中で、

「占部さん。アナタ、元は男だったの!?」

「違う、女だ!」

「マイケルって、男の名前でしょ?」

「オレのいた世界でも、マイケルって言う名前の女を珍しいが、前も今も女だ!」

「でも――」

 そんな突っ込みが入ったが、今回も一応、聞いてくれた。

 相変わらず、顔をしかめて、頭を抱えて……自分では手に負えませんと、言わなくても行動が示している。

(情報収集は失敗か?)

 何か魔女に期待していたところがあったが……難しそうだ。ただ、記憶を取り戻してくれたことには感謝すべきかもしれない。

 まあ、それによって『世界を救え!』などと、試練を思い出したのがあるが――

「異世界の住人なんて、笑い種だろ?」

 普通だったら、信じてもらえない話だろう。この世界の自分、ウラベもそう思っている。

 しかし、目の前の魔女はちょっと違った反応を示した。

「この世界がひとつだなんて、アタシ達、魔女はそう考えていません」

 そうきっぱりと言いはじめた。

「占部さんの記憶はホントのことでしょう。実際、今年の茂林寺の祭りでひとり、救急車で運ばれています」

「――オレのことか?」

「その場にいなかったので、話には聞いていました。まさにかがり火が倒れて……でも、気を失っただけで火傷ひとつ負わずに、次の日、退院したとか」

「それが、オレのこと――」

「名前までは聞けませんでしたが、あそこの神様が「怪我人が出た!」って、嘆いていましたから」

「あそこの神様?」

「あッ! 忘れてください。占部さんには関係ないことですから」

 何か魔女にも秘密があるのか? あきらかな隠したそうな顔を一夜はする。

「話を戻しましょう――

 現実にそんなことがあったと言うことは、占部さんの記憶に一致するところがあります。つまりは……アナタはウソをついているわけではない」

「ウソだなんて――」

「大丈夫です。実はこの部屋には結界が張ってあります。

 真実を語るという魔法がかけてあります。昨日、占部さんがこの部屋に現れることを――」

「LINKで通知があったときから?」

「そうです! ダテにこの街の魔女やっているわけではありませんから!」

 とまあ、小さな身体に腰を当てて威張ってみせる。

 思えば、自分がここで話したことに、ウソは入っていなかった。

 最初の日だって、誤魔化そうと思わなかった。『真実を語る」というのは、案外ウソじゃないかもしれない。

 それにあたしも掛かって、彼女も掛かっていたのか……「無理」と言わないまでも行動が物語っていた。頭を抱えたり、顔に出したり――

 むしろ結界をかけた本人に、一番効果が出ていたのかもしれない。

「異世界関係のことは、アタシの持っているものでは、これ以上は力になれません。ので、ちょっと道具を揃えましょう」

 と、再び白衣のポケットをまさぐり、スマホを取り出した。

「道具を揃えるんじゃ……作るのか? それともアプリみたいな――」

「通販で買うんですよ」

 そういえば、「今どきはスマホを扱えないと、魔女もやっていけない」とか言っていたが、そんな便利な道具、買えるのか?

 ウラベの記憶にはない。確かにネット通販で何でも揃うと言うが、そんな魔法の道具も扱っているわけが――

「あったッ! これだ。高いなぁ……まあ、今回の事で少しは儲かるでしょう」

 ブツブツ言いながら、一夜がスマホを操作していた。

 今回の事というのは、あきらかにオレの相談の話だろう。儲かるとかいうと言うことは、金を取る気なのか?

(聞いていないぞ!)

 確かに慈善事業でやっているわけでもなさそうだが……渡された砂時計とか道具だって、それなりの対価が必要なんだろう。更に異世界に関しての道具を買うというのだ。

(あたしの財布の中には――)

 数千円は入っていたはずだ。仲の悪い親から、最低限の金は置かれていた。

 一体いくらのものを買うのか?

「これでよしっと、到着に2週間ぐらい掛かるそうです」

 オレに一夜は、スマホの画面を見せてきた。

 そこには大手通販サイト『Mangroveマングローブ』の画面が映し出されていた。商品は、金色の小さな望遠鏡のようなもの。


 お買い上げありがとうございます!


 とのメッセージが書かれている。

 これがなんだというのだ? それよりも一体、いくらなんだ?

「これは別の異世界を覗ける望遠鏡です」

「それよりも……さっき儲けがどうとかいっていたけど……オレは」

「お金のことは大丈夫ですよ。経費で落とします」

「経費?」

「ここまで踏み込んできたのですから、話しますが――

 アタシ達、魔女の主な仕事は、この街の治安維持ですから!」

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