蘇った記憶1

 ピピピピピピッ!


 こうして、オレ……いや、あたし、ウラベ・アキラは現代で起こされた。

 魔女・いちから渡された砂時計で、忘れていた記憶を思い出した。

 世界を救うために、あたしは飛ばされてきたのだ。

(元いた世界に戻らなければ!)

 一夜が渡した砂時計では、記憶を遡りきれなかったのかは解らない。何か大事なことがあって、あの『炎の獅子』の試練を受けにいったはずだ。だが、肝心なことが抜けている。

(元の世界に戻るのは……やっぱり、世界を救うことか?)

 改めて思うと、ノーヒントでこの世界に飛ばされた。

 何をどう救えというのか分からない。

 そもそもこの世界が危機になっているかということも、間借り憑依している身体の持ち主、ウラベ・アキラの記憶によれば……ない。

 先程も考えたが、思いつく世界の危機が、『地球温暖化』だの『星の裏側の戦争』だのだ。世界の危機であることには変わらないかもしれないが――途方もなさすぎる。

(まずは情報収集からか……)

 地道に脚で稼ぐしかないようだ。こんな狭いアパートにいたところで、集まるものも集まらないだろう。

 それに、改めて占部洸自分の身体を眺めて見たけれど、

(――貧弱。飯をちゃんと食べているか、こいつ?)

 元の世界では、ウラベ・アキラの記憶にある言葉を使えば、『剣士』であった。

(武器になりそうなもの――)

 台所にナイフ包丁はある。だけど、この世界では下手に刃物を持ち歩くのは、犯罪だという。

(家宝の短剣は……あるわけ無いか)

 家から勘当されたときに、柄に獅子の紋章の入った短剣をくすねてきた。だが、手元にあるはずも無い。

 武器が使えないとなると、身体能力で何とかしなければならない。だが、今の身体は……力も無さそうだ。今のウラベ・アキラの四肢は、棒きれのように見えた。

「使えるのかな?」

 と彼女は両手をあわせる。少し開けて目の前に持っていく。そして、念じた。

 するとどうだろう。少しだけ、赤い光が渦を巻きはじめた。だが、それまで。ロウソクの炎よりも小さな光が灯ったかと思うと、すぐに消えてしまった。

(魔法はまともに使えないのかよ!?)

 一応、この日本という世界でも魔法は使えるようだ。だが、期待しているような光の塊にならなかった。

 体力もない。武器も使えない。魔法も上手く使えないとなれば、最悪の状態だ。

(世界を救え! これじゃあ、生きていけないじゃないのか!?)

 記憶を辿れば、「金があれば何とかなる」と、この現代には困らないらしい。

 母親は顔を会わさないが、テーブル食卓に毎週1回だけ、少しだけお金を置いて行く。それが自分、ウラベ・アキラがこの世界で生きて行く糧になっている……ようだ。

(手がかりはないか? 人が集まるところ……)

 そう考えると、記憶の断片を思い出させた魔女・一夜の顔が浮かんだ。

 ないと思っていた魔法も、先程試したことで使えないわけではないようだ。

(とにかく学校にいってみるか?)

 どうやって行けばいいかわかる。家を出て、駅に向かい、電車というものに乗る。

 記憶を取り戻す手助けをしてくれた、あの魔女・一夜に会って話をするべきだ。何かヒントを持っているかもしれない。

 決心がつくと、オレは身支度を始めた。

 ボサボサの髪は赤いリボンで縛り……ただ、セーラー服を着ると、

(こんな脚を見せるの穿くのかよ!?)

 今更だけど……丈の短い、太ももの上半分しかないスカートを穿くのに――

 昨日まで穿いて、人前を歩いていたというのに、恥ずかしくなってくる。

(何か脚を隠すものがないのか?)

 そう考えていると、ベランダに干されていたものが目に入った。

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