会話スキップ

「1.1で魔界表層が追加されたおかげでPL達は魔界がどれぐらいのクソ環境で魔軍がどんだけ必死にこっち側の世界に来たのかが解ります。ですが現在魔王を含めた高位役職者は前線に来て指揮を執っています。それだけ人界の土地を取ることにガチだという事です」


「……そこの勇者、やってる事は珍妙だが我々の事情には詳しいようだな」


「この奇行と説明口調を珍妙で済ませられるの相当な器の持ち主だな……」


 侵略者として立ちはだかる魔軍だが、その本質は決して悪ではない。彼らは生きる為に仕方なく侵略しているのだ……先代カスと2代目カスのカスOfカスコンビネーションが原因で侵略という手段を選ばざるを得なかったが。


 グルムに案内され陣地の奥へとたどり着けば、鎧をまとった一人の黒い肌の男が陣地の正面に腕を組んで立っていた。その周囲では魔族たちが頭を垂れて静かに男の姿に敬意を表している。グルムもまた、数歩前に出ると頭を下げた。


「魔王様、客人を案内しました」


「あぁ、良くやったグルム。下がっていろ」


「はっ」


 頭を下げてからグルムが去る。その姿に心配と呼ぶべきものは一切ない。魔王に対する信頼、信用、絶対的な信仰すら感じる程の安心感を抱いている様にさえ思える姿勢だった。いや、実際そうなのだろう。あのオワコン環境の中で魔界を瓦解させずに維持している王様なのだ。


 魔界の連中からすりゃあ魔王は生きた神だ。


 赤髪に褐色ではなく、夜のように黒い肌の男は俺達を見て、ふ、と笑みを零した。


「良くぞ参った勇者よ、そして帝国皇帝に王国の姫、そしてそれに並ぶ勇士たちよ。まずは謝罪を、そして感謝を。俺があの糞を煮詰めた程度では足りないぐらい腐った性根のカスを超えるゴミの手によって自分を失っている間の事、申し訳なく思う。人界の者達には迷惑をかけた」


「謝罪を受けよう。魔界の事情は多少ながら私の耳にも入っている。今更この世に新しく世界一つ分の民を受け入れるだけの余裕があるとは思えない。生きる為であれば侵略も良しとする……王の判断としては間違いではないだろう」


「まあ、私の場合は特に大きな被害がありませんでしたから……」


 まあ、司祭暗殺したしね。偽司祭! お前の乳首が破裂して死んだおかげで今の俺達はここにいるんだぜ……!?


「そして勇者よ、あの全生命最高の反面教師を良くぞ滅ぼしてくれた。出来る事であれば俺自身があの歴史上最もカスの名にふさわしいカスを殺したい所だったが、こうやってお前が倒してくれたおかげで戒めから解放された。感謝する」


 無言のサムズアップで返答。やっぱり魔王様も2代目カスの事は嫌いだったんだなあ、というのが言葉から良く感じられる。


「漸く、長い悪夢を見ていたような状態から解放された―――とはいえ、決してこれで終わりではない」


「そろそろ話が長くなってくるので会話をスキップする」


「うわー! 陛下たちの口からキュルキュル音がしてるぅ―――!!」


 会話のスキップボタン押してるから当然じゃないか。ここは会話が長くなるのでEnter連打ではなくCtrlボタンを押して加速させる。短い会話なら連打で良いのだが、流石に長い所になるとスキップしてしまう方が早い。


「簡単に話を纏めますと魔王も陛下も正直講和で済ませたい所が滅茶苦茶大きいですが、既に国民感情の問題でお互いに引くに引けないって所まで来てしまっています。だから決着はつけなければいけないという話です」


 2人の間ではこの瞬間、認め合って立場を超えた友情を感じ始めている。或いはそれは、英傑だからこそ感じるものなのかもしれないが。ちなみに俺は特にそういうシンパシーを感じた事がない。魂がRTAの形をしているからかもしれない。


「帝都の人たちとか魔族ヘイト凄かったもんね」


「そうですね、帝国全体の魔族ヘイトは自分たちが侵略されている事に対する怒りなので当然と言えば当然の感情です。ですが魔族側もここを引けば未来のない魔界に逆戻りなので当然、必死になるしかありません。その立場をお互いに理解しているからこそ講和で終わらせる事は絶対に無理だと思っています」


 悲しいけど、時間も場所も物も足りないのよね。


「魔界の問題は事実上、魔界内では解決不可能です。なので人界へと進出してくる必要があります。それで人のいない未開拓の地域でも使えば? という話はまあ、魔界には物資がないので奪うか恵んで貰わないと何も始められないって感じなのでェ……」


「つ、詰んでる」


 というかカスがそういう風に仕向けた。アイツが死んだ所でなにも問題解決されない辺りがミソなのだ。生きてて迷惑! 死んでも迷惑! その名は燃えるゴミ!


「そろそろスキップを止めます。大体魔王と陛下で人類と魔界で代表者を決めて決着を付けようという感じで話が着地している筈です。なので人類側からは私、姫様、陛下の3人で出ます。そうする事で魔界側も魔王と一緒に2人選出されます」


「と、いう事だ魔王よ」


「異邦の勇者がそう言うのであれば俺に異論はない」


「すげえ、この3人会話スキップされてるのにちゃんと話が通じ合ってるぅ……」


 生命、目を見れば言葉なんてなくても大体通じるよ。ソースはありさ。マイ幼馴染は俺の目を見ただけで考えまで把握してくれる凄い奴さ。最近は目どころか俺の事を見てなくても勝手に先手打ってくるけど。やりますねぇ!


「でしょ?」


 ともあれ、ここからは残念ながら幼馴染、ジョック君、西脇殿は足手まといになってしまう。PT数の調整の為にも戦闘メンバーからは外れて貰い、観戦側に回って貰う。そうする事で魔王サイドの参戦人数をコントロールできる。


「準備する時間が必要なら多少は休む時間を設けても良いが?」


「タイムは!! 命より!! 重い!!」


「解った、休む必要はないようだな」


 よっこらしょ、と姫様の肩から降りて弓を抜く。魔王が手をぱんぱんと叩いて、戦う為の陣を作らせている。また最も信頼する部下を呼び、戦いの準備に入る。その間にチームRTAで集まる。陛下が腕を組みながらそれで、と言葉を置いた。


「勇者よ、私はどう動けば良い」


 ちらっと魔王サイドを見る。魔王と一緒に戦うのはグルムと……女の魔族将軍シェナだ。魔王のように夜の様に黒い肌を持つ赤毛の女魔族で、確か魔王の妹だったか。となると編成パターンCだ。編成パターンの中で一番強い連中が集まっている。まあ、リアル環境だしそうなるか。


「陛下はシェナ……あっちの女将軍の相手をよろよろで。私がグルムを相手して、姫はエターナル掌握ループで魔王を抑える感じで」


「私が魔王を抑えなくて良いのか?」


「覚醒前ならともかく、覚醒後の魔王は戦闘中に徐々にリハビリしてきてエンジンかかるんで。大体60秒経過でクリちゃん陛下押され始めますよ」


 60秒で全ステータスが大体5割増しになるからな、あの魔王。そもそも現時点で陛下よりもスペック高いのに更に強くなるんだから魔王、マジ無法。過酷な環境で民を率いて戦い続けてきた最強の指導者なんだからそりゃそうなんだろうけど、ちょっとは自重してくれ。


 カスに抑え込まれていた力も今は徐々に回復しつつある。普通に考えるならまあ、完全復活する前にしか勝機はないだろう。


「グルムのアーマー剥いだらシェナと直線状になるように並べるので、その時にバーストでおねしゃっすしゃっす」


「ん、了解した。大体理解した」


「あざあざ。姫様は」


「勇者様の仰ること、考える事は全て解っていますよ。魔王様を掌握で抑えつつ他の攻撃に晒されないようにちゃんと立ち位置を調整しつつ2人の処理が終わったら3人で一気に魔王を落としにかかる……ですよね?」


「うす」


 ジョック君と西脇殿に視線を向ける。此方から視線を外して魔族の一団と仲良くなってた。お前ら大変だな……みたいな会話してるのズルいが。ズルいがー? それにしても電波系ヒロインに迫られるのってこういう感じなんだね。もう二度と読めなくなったわ。


 作戦会議終わり!


 陣地の形成も終了したのでバトルフィールドに3:3で向かい合う様に入る。正面には魔軍最強の3人が揃っており、此方も人類最強の3人が揃っている。つまりRTAだけが生き残る。


「改めて、感謝する勇者。貴殿のおかげで俺は解放された。解放され、後悔もした……だが己の責務に背くような事は出来ない。この戦いを終わらせて貰う」


 魔王の言葉に対して取る行動は一つ。


 中指を突き立てる事のみ。


 戦いは決してよーいどん! で始まらない。互いに戦う意思を確認した瞬間が戦いの合図。中指を突き立てて戦意を示した瞬間、全員同時に動き出した。一番動きが早いのは魔王で、次に反応するのは姫様。


 当然のように繰り出される摺り足掌握を、グルムがカットする事で身代わりになろうとする。最強戦力を活かす為の一手を俺が開始と同時にそれを読んで放ったノックバック効果の強いスキルを事前に置く様に放つ事で対処する。


 それを防ぐために放つシェナからの魔法を陛下が大剣を振るう事で大地を粉砕しながら魔法を破壊する。


 自分に向けられた掌握の発生を理解し、回避できないから大地を踏み込んで土壁を生成する事で射線を遮り魔王がガードする。だけどそのパターンは知っていたのでグルムへの射撃と同時に摺り足で同じスキルを魔王へと向かって放っている。


 グルムと土壁が粉砕され、魔法が不発する。そして姫様から魔王への射線が通る。


「掌握」


「くっ」


「あの獣の姫を落とせグルム!」


「解っていますシェナ様!」


 姫様が魔王を抑え込めばグルムとシェナのヘイトが一瞬でマックスになり、その矛先を姫様へと向けるので、その間に俺と陛下で立つ。


「ぐーるーむーくーんとしぇーなーちゃーん」


「私達とあーそーびましょー」


 初動は完璧。最大戦力は封じ込めた。ステート攻撃を抵抗する手段は存在しない。姫様が魔王を抑え込んでいる限り魔王は動けない。故に最大戦力を沈黙させている間に随伴戦力を俺と陛下で削り、総員で魔王を倒す。


 RTAにおけるトゥルーEND魔王戦、王道パターンだ。


「それではトゥルーEND最終戦、始めます」


 このゲーム最大にして最強の難所、攻略するよー。

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