RTA In じゃぱん
「本来はイベントを通さないと飛空艇などの飛行乗り物は手に入らないのですが、空中庭園攻略後はマップ移動とイベントの関係上絶対に騎乗状態にあるので、本来は所有していないドラゴンで移動が可能になります。これは降りるまで継続します」
「生身で飛ぶのと違って滅茶苦茶快適だな!」
『汝らの小さき姿が落ちないように気を使っているからな!』
「なんでも風と重力の魔法で落ちないように、吹き飛ばないように気遣ってるらしいで御座るからな」
「今まで出会って来た誰よりも気遣いの紳士じゃん……」
ぐう聖さん達ドラゴンは地上における最強種とでも呼ぶべき種族だ。まあ、最終的に裏ボス―――禁魔と呼ばれるジャンルのモンスターたちのが強いのだが。それでもそう言う例外を抜きにすると最強の種族だろう。
そんなドラゴンたちは愚神によって繁殖禁止の呪いをかけられていた。つまり子供が生まれないし、これ以上数を増やす事が出来なかったのだ。だからこれ以上種の数を減らさぬように世界の果てに逃げ、そして潜んで彼らは暮らしていた。
長き時を生きる彼らは賢い種族だったのだ。その中でもぐう聖さんは外の世界に目を向けていたドラゴンの内1体だ。
「ドラゴンの歴史とぐう聖さん周りの話は是非自分で遊ぶかインフェルノくらげさんの動画でも見てください。今重要なのはぐう聖さんは移動手段として見るとクイックブースト持ちでファストトラベルを抜けばゲーム中最強最速の移動手段であるという事実です」
これは勿論グリッチを使った飛行移動を含んでの話だ。
「クイックブースト、直角に曲がる事が出来、飛行での攻撃手段まで兼ね備えるぐう聖さんは最強の移動手段です。解禁されるのは残念ながら終盤ですが、ぐう聖さんを使ってこのまま最前線を超えて魔王軍の本陣まで切り込みます」
『見えてきた、中央大陸だぞ』
古き力ある龍が恐らく数百年ぶりに姿を現した事態に大陸の人間は目撃した瞬間に夢でも見てるんじゃないかと一瞬思い、そして足を止める。だがその驚愕や喧騒を置き去って魔法を使った加速ブーストで暴風を発生させながらドラゴンが加速する。
海を一瞬で越え、大陸に到達し、帝国に到達し、一気に帝国の端まで。
これまでこれらを超えるのに数時間かかった旅を、ドラゴンという移動手段で数十秒程度で一気に踏破する。
この乗り物を手に入れて移動手段が更新された瞬間の楽しさ、冒険が一気に次のステージに切り替わるという喜びをリアルでも味わえるとは思いもしなかった。
RTAで使い慣れた移動手段の筈なのに、周りの景色が瞬く間に切り替わって流れて行くのは心が躍る。
だがこの旅も終わりだ。6時間の冒険、6時間の救済、6時間の全力疾走。
終着点は寂しいが、もうすぐそこだ。
「見えました、最前線です。ここでお願いします」
『む、解った』
最前線の中の最前線、激戦区エリアの本陣近くに到着するとぐう聖さんが急ブレーキをかけるが、此方に一切の負荷はない。ゆっくりと大地に降り立つとそこから飛び降りて着地する。再びオン・ザ・姫をしてぐう聖さんを見上げる。
『最後の戦い、健闘を祈る。創生より始まったこの愚かな悲しみと憎しみをどうにかできると信じているぞ。なによりあの愚神を倒したのだからな』
そう告げると翼をはばたかせ再び空へと浮かび上がり、世界の端へと去って行く。それと入れ替わるように数時間前に見た姿がやってくる。スーパー帝国人の陛下だ。
「数時間見てないうちにこう……イメチェンか? だいぶ様変わりしたな。いや、深い事は聞くまい。説明された所で理解は出来ぬだろうしな。それよりも魔軍が突然軍を引かせた事の真意が気になる。貴殿らの仕業であろう?」
「ここで陛下と再び合流します。2代目カス神を殺したことで、魔王が神によってかけられていた洗脳が解除されて、現在は正気に戻っています。その為現状把握を含めて進軍を停止しています。これはカスを殺すと発生するイベントです」
「成程、魔王が正気に……なら切り込むのは今だと言う事だな?」
陛下がやる気満々の表情を見せているので頭を横に振る。
「ここで陛下に進軍させると魔軍に大打撃を与えられますが、トゥルーENDにはなりません。文句なしの大団円を目指す為にはここで魔軍を攻撃してはなりません。このまま魔軍領域に乗り込みます」
「ほう、考えがあるようだな。なら私も相乗りさせて貰おうか。アルセイス! 不在の間は頼むぞ!」
「陛下、あまり勝手に動かないでほしいんですけど……」
陛下がPTイン! 再びのゲスト枠に登場。そしてトゥルーENDルートを通っている事もあり、最後に加入する陛下のレベルは何と99になっている。ここら辺はレベル99ないとそもそも足手まといってレベルの戦いだから当然と言えば当然なのだが。
「陛下がPTインしたのでこのまま魔王軍本陣へと乗り込みます。道中は一時停戦に従わない魔軍兵がいるので、可能な限り回避するルートを通ります」
「アルセイス」
「はいはい。良い感じの台ですね……」
陛下の指示に従って兵士たちが飛行用に使える良い感じの段差を作れる台を用意してくれる。陛下からこれが欲しいんやろ? 知ってるで? みたいな視線を向けられるので照れてしまう。へへ、やっぱ陛下は最高だぜ!
「良い感じの段差を用意して貰ったので早速速度を保存してから飛びます」
「ドラゴンのが快適だったなあ……」
文句を言うな。これだって滅茶苦茶優秀な移動手段なんだぞ!? 開発されるまではホバー移動とか高速爆風ジャンプとか爆速押し出しジャンプとかいろんなグリッチが開発されてからここに至ったんだからな……。
「うわ、見ろアイツだ! アイツが空を飛んでる!」
「勇者だ! 勇者が飛んで来たぞ―――!」
「尊厳凌辱されたくない奴は逃げろ―――!!」
「い、いやだ、武器にされたくないぃぃぃぃ!!」
空を飛んでると目撃した魔族たちが悲鳴を上げながら逃げて行く。名声パワーによって雑魚が自動的に逃げて行く姿は何度見ても心地よいなあ、と思いながら台地を挟んだ反対側、魔軍の陣地に到着する。もう既に深く切り込んでいるのでこれ以上空を飛ぶ必要はない。
と言うよりここから飛ぶと必要以上に飛んでしまう為に陸路を行く。
オン・ザ・姫様! 最後まで姫様を酷使するぜ!
「流石最終盤という事もありここら辺に出現する魔族エネミーはどれも極悪クラスのエネミーばかりですが、巡回ルートを知っていれば回避する事はそう難しくありません。視線の動き方を理解して抜ければ見つかっても追いつく前に目的地にまで行けます」
「ぐ、勇者か! 待て!」
「皆! こっちだ! 魔王様の所に通すな!」
「親衛隊と近衛か……確かにまともに相手すると面倒な手合いだ」
「陛下、勇者様の仰る通りに戦闘は回避しましょう」
「ふ、今更勇者殿の言う事を疑ったりはせぬさ、姫」
敵の視線を掻い潜って移動しても音で気づかれるが、その頃には既に距離が開いている。アクティブ化して襲い掛かろうとするのを騎乗速度で逃げ切りながら奥へ、本陣の奥へと突き進めばやがて開けた場所へと到着する。
その中央へと到着すれば前後に魔族が出現し、周辺から取り囲むように数十もの魔族が出現する。全員恐れを抱かずに怒りと使命感を瞳に燃やしながら此方を睨んできている。統一された服装、装備、そして圧倒的なまでのレベル。
彼らは雑魚でありながらレベルは既に90を超えている。終盤の雑魚エネミーだ。
「取り囲んだな? 総員油断するなよ、相手は帝国皇帝と勇者だ。特に勇者は妙な技を使う」
「ここだけは絶対に通すな! 何をするか解らないぞ!」
「声を絶やすな! された事を常に報告し続けて情報共有しろ! 何をしてきたのかを解析して対策するぞ!」
声を張りながら続々と魔軍の猛者たちが集まり出す。目敏いプレイヤーであれば囲んでいる一角にはバトルラインに出現するフィールドボスが包囲に混じっているのが解るだろう。魔軍にとってはここが最終防衛ライン、ここを抜かれれば魔王まで真っすぐになってしまう。
故に、絶対にここで止めなければならないのだ。不退転の覚悟を持って立ちはだかる魔族たちを前に自然と陛下も対応するように武器を抜こうとするが、突然奥の方から砲弾のような衝撃が正面に着弾した。
巻きあがる土煙の中、声が響く。
「止まれ! 親衛隊及び近衛! 即刻戦闘状態を停止せよ! その者達は今この瞬間魔王様の客人となった! 即座に戦闘を中止し、指示に従え!」
煙が張れるとその中から屈強な魔族の男の姿が現れる。左右に手を伸ばして戦闘を始めようとしていた魔族たちを抑え込む。直ぐに誰がやって来たのかを理解した魔族たちは姿勢を正し、敬礼を持って男を迎えた。
「グルム様!」
「2度は言わない、良いな?」
「はっ!」
「ふむ、軍人としても非常に優秀なようだ。普通、この状態で戦闘を止めろと言っても即座に反応できるものではない……よほど上官に対する信頼と信用があるようだ」
リアル化したから可視化できる要素も中々面白いよなぁ、と陛下の言葉を聞きながら頷く。そして正面、グルムと呼ばれた魔族の男―――まあ、これはプレイ済みなので解るが、魔軍における大幹部の1人が此方に向かって近づいてきた。
「魔軍の大幹部、いわゆる四天王ポジションの1人です。通常のプレイだとどこかしらでプレイヤーと衝突し、何度か戦う事になるエネミーです。魔族との衝突を回避するプレイをしていればここまでエンカウントする事もなく、こうやって余計な戦闘を回避する為に動いてくれます」
これで余計な戦闘を数回分回避できる。魔族側の人材も多く残っているので、此方に対するヘイト値が少ないのも重要だ。派手に暴れすぎるとそれだけヘイトが溜まって強制戦闘が増えたりする。
「貴殿が勇者殿だな?」
「> はい」
「成程……噂通りに肩車されているな……。報告にあった姿とは多少どころか凄い違いを感じるがその力、そしてここまでくる胆力は間違いなく勇者のものだ。魔王様が貴殿らを恩人として、客人として招くと仰っている。付いて来てもらいたい」
「> はい」
会話を加速させてからの了承。グルムは頷いて先導してくれるので、それに従って移動する。ここからは自動移動で戦闘もなく、残されたのはラスボス連戦だけだ。即ち魔王戦。ここで正しい選択を選んでトゥルーENDを迎えれば大団円を迎えて地球に帰れる。
「6時間の冒険も残り少しです。慢心せず油断せずガバに気を付けてクリアしましょう。エンディングを迎えるまでがRTAです」
RTAが終わってしまう事に、ちょっとだけ寂しさを感じつつも魔軍本陣奥へと向かった。
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