グラウンドゼロで僕と握手!

「第3形態は左翼右翼本体で3体のモンスター扱いです。左翼が物理無効、右翼が魔法無効、そして本体が翼が落ちるまで無敵で一定時間後に翼復活です。また1番ダメージの大きかったダメージを記憶し、10秒ごとにその属性攻撃に対する30%の耐性を取得します。これは無属性も含みます。耐性は翼が両方破壊される事でリセットされます。姫様ー」


「勿論、勇者様の仰りたい事は全て解っています。えぇ、全て……」


「おのれ、東方の狐が……!」


「問答無用で本体をストップして貰います。ステート攻撃には無敵関係ないから仕方がないね」


「RPとはいえどうしてこの性能を許したという話で御座るよなあ」


 まあ、グリッチ認知してもシナリオの方を優先したという判断かもしれない。実際、玉藻RPは玉藻に関連する東国のシナリオに対して理解と深みを生み出した。悪いのはRPを用意した開発じゃなくてそれを悪用してる俺らだよ。


 もう1度言おう。


 悪いのは! 悪用してる! 俺ら! すっきりした。弓を物理無効の左翼へと向ける。


「最初に破壊するのは左翼です。と言うのも、左翼は魔法攻撃メインでデバフが山盛りの為、放置すると面倒な事になります。DoT床、ステータス低下、状態異常、これらが容赦なく連続で降りかかってくるのでクリア手段がないと赤ちゃんレベルに無力化されますばぶぅ」


「ばぶぅ」


 なので容赦なく左翼から破壊する。《ネメシスバスター》は無属性物理攻撃なので、火属性単体大ダメージ攻撃である《フェニックスアロー》を放つ。火の鳥の形の矢が放たれて着弾で5ヒットする弓最上級魔法属性攻撃だ。


 ちなみに本来のチャートだと左翼右翼の攻撃を回避しながらここで攻撃回数を蓄積、攻撃しない事で耐性を取得させずに初級スキルの《マジックアロー》で破壊する予定だった。此方は何と悲しみの1ヒット攻撃。スキルの等級でどれだけ性能が変わるのかが良く解る。


「流石に連戦型裏ボスという事もありHPは多めに設定されています。このステータスと性能でも片翼を破壊するのに15秒ほどかかります。はい、左翼破壊です」


 フィールドには蛇が上から叩きつけられ、衝撃波が発生する。また空から落ちてきた剣の柱が此方を殺しに来ている。足場になってくれているドラゴンは回避できるものはなるべく回避しつつも必死に耐えて此方が攻撃できる距離を常に維持している。姫様はそんなドラゴンを回復しつつ本体への掌握を維持している。


『気を付けろ人間、右翼も砕かないと本体には攻撃が届かないぞ』


「ぐう聖ドラゴンさんの言う通り、右翼も砕きます。ただし先ほど使用した《フェニックスアロー》で火属性耐性を30%取得されているので、5秒ほど経過して60%耐性へと変化した直後に物理無属性である《ネメシスバスター》連射で砕きます。こっちはきっちり10秒で終了します」


 無法、あまりにも無法。摺り足しながら本来であれば数分は経過しないと放つ事の出来ない回数を数秒間の間に連続で射出する事でありえないスピードでダメージを蓄積する。背水補正のほかに背水での謎クリティカルも乗る為、《ネメシスバスター》は弓での終盤最強の攻撃手段になる。


「はい、破壊」


「ぐあっ……ぐっ、貴様ら……!」


「よろけ声が欠片も可愛くないんですよね、こいつ。自分の需要を欠片も理解してない。まあ、おかげでリョナ系同人誌の常連になってますよね……顔と体だけは良いので」


「知りたくない情報出たな」


 という訳で本体ががら空きになった。ぐう聖ドラゴンに向けて外野から天使たちが攻撃を行っているのを西脇と幼馴染とジョック君に迎撃させつつ、掌握で動きが停止しているカスの顔面に本日の《ネメシスバスター》を連続で叩き込んで行く。


「や、やめ、止めろ、止めろ!!」


「タイム短縮の為にはよ死んでほしい」


「止めてくれ!!」


 両翼死亡、本体は掌握で逃げられない。雑魚たちも迎撃中なので止める手段がない。自分が詰んでいると漸く理解した蛇神が懇願し始めるのを無視して開いた口の中に矢を叩き込む。流石に本体のHPは高い。ストッパーは設定されていないが一定時間で無敵化、両翼復活というルートになっている。


 ただ此方の火力は無法レベルの領域に達しているので、両翼が復活する事を心配する必要はない。


 当然のように連続で放つ矢が顔面を捉えてHPの全てを粉砕し、そこから走る亀裂が蛇神の全身に回る。


「わ、私の、私の体がっ、力がぁぁっっ」


「はよ死んで?」


 喋ろうとする口に矢を叩き込んで、口上すら黙殺してそのまま肉体を崩壊させる。周囲を飛んでいた天使たちも主の敗北に合わせて体が崩壊を始め、戦闘が終了した事を告げる。大量の経験値と共にレベルアップしながらぐう聖が吠えた。


『まさか邪神を赤子を捻るかのように超えるとは。これが人の可能性、人の力か……我も見習わねばならぬな……』


「人の可能性というより開発のガバとバグの可能性じゃないかなぁ……」


『奴が本当に死んだかどうかを確かめるぞ! 掴まれ!』


 しゃがんでぐう聖の鱗を掴むと1回上に浮いてから勢いよく地面へと向かってダイブする。巨大すぎた蛇神の肉体が辺りの地形を粉砕し、山を崩し、谷や新しい川まで生み出しながら崩壊する。


 そして本体部分が砕けて落下した大地、そこには巨大なクレーターが生み出されてる。そこにぐう聖の力を借りて一気に接近すると、最後に減速して着地する。ぶわっと風を巻き上げながら着地したぐう聖はそのまま下りやすいように体を低くしてくれる。気遣いの達人か?


「よ、っと。いましたね、ぼろぼろのカスです」


「うっ……ぐっ、あっ……あっ……」


 クレーターの中央では下半身を失って、上半身だけの状態で藻掻いている蛇神の姿が見える。サイズも姿も最初の状態に戻っており、折れた翼ときらきらと光る粒子を体の断面から零しながら地面を這っている。


「く、来るな、殺さないでくれ……来るなぁ……」


「アレ程イキってた姿がここまで惨めになると楽しいものがありますねえ! 私は見慣れてるので特に何も感じませんが」


「お前の精神状態おかしいよ」


 だってRTAだから一々イベントに反応してられないし……。何時も通り姫様の肩にパイルダーオン! してから地面を這って逃げようとするカスの前まで移動する。片腕だけ残った状態でカスは必死に地面を掴んでずるずると崩れ落ちる体を引っ張って逃げようとしている。


「私は……神だ、ぞ……崇めろ、称えよ……お前、ら、なんぞ、に……!」


「言いながら逃げてるところがとても可愛いですね」


 髪の毛を踏んで動きを止める。


「ここで彼女から神の力を抽出する事が出来るので、抽出してしまいましょう。ただしこれは使わないように気を付けなくてはなりません。使用してしまった場合、強制的にグッドエンディングの一つである“異世界の神”でエンディングを迎えます。これは異世界永住エンディングなので気を付けましょう」


「や、やめ、やめ―――」


 上から手を背中の心臓のあるべき場所に叩き込み、そのまま心臓にあるものを引きずり出す。光り輝く多面体の結晶が手の中で煌めいている。


「神の力の元、神のコアです。トゥルーエンディングを迎えるにはこれが必須ですので必ず回収しましょう。回収を忘れてここを離れるとこいつの死と共にロストになる……と言うよりこのイベントマップには戻って来れないので気を付けましょう」


「ぁ……っ……ぉ……ぁ……」


「僕とグラウンドゼロで握手! ノルマ達成ですね」


 瀕死の状態の蛇神を持ち上げ、肩を組んでピースサインを浮かべたら幼馴染が写真撮ってくれる。上手く撮れてる? 撮れてるな、後でこっちのスマホに送っておいて。ジョック君はドン引きしてるけど西脇はしっかりと逆サイドで肩を組んでる。


 終わったらゴミを投げ捨てる。神のコアをインベントリに投げ込んでぐう聖の背中に乗せてもらう。


「では放置しても朽ちる燃えないゴミは放置してこの戦いを終える為に中央大陸に戻りましょう」


『ふっ、良かろう。汝の行きたい場所は解った。そこまでであれば我が送ろう。それはそれとして』


 背中に乗った所でぐう聖さんが燃えないゴミに向かって超圧縮高熱ブレスを吐き出して蒸発させた。


『あれは燃えるゴミだぞ、人間よ』


「ぐう聖でもこの対応かぁ」


 まあ、歴史的にヘイト稼いだカスだったからな……。


 ともあれ、これでついに長い6時間の旅路も終わる。


 行こう、最後の地へ。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る