トレンド1位達成

 世界樹の上から飛んでもそれなりの距離と時間がかかるし、角度を間違えれば移動時間が丸ごとロスになる。とはいえ何度もやっているルートなのでここはきっちり間違えずに飛べる。世界樹から飛んでしばらくすると、漸く肉眼でも空中庭園の姿が見えてくる。


「見えてきました、裏ダンの一つ空中庭園です。と言っても2代目カスと敵対関係にならない限りは敵はアクティブ化しないので、安全に乗り込む事が出来ます。出現する敵は雑魚を含めてどれも最高レベルの敵ばかりなので、終盤のレベリングにも使えます」


 今回は乗り込んでボスを討伐するだけなのでそう複雑な事はしないが。


 ともあれ、角度調整も勢いも飛距離も完璧にコントロールしているので、何時も通り姫様を乗り捨てて空中庭園に着地する。複数の浮かび上がる庭園が橋によって繋がっているような形状をしている、複数の浮遊島から成るのが空中庭園というマップだ。


「空中庭園に到着です。可能なら中心部にそのまま乗り込みたいですが、バリアによって中心部は遮断されている影響でそのまま乗り込む事は出来ません。なので何時も通り壁抜けで抜ける為にそこまで移動します」


 オン・ザ・姫様で早速移動開始。


「段々とこれも見慣れた光景になってきたな。地球に帰っても同じように壁抜けしない事を祈ってるよ俺」


「吉田君、手元で何か作ってるけどそれは?」


「これね、人の心って作れないかちょっと試してて……難しいなあ」


「ついに期待する事を止めたで御座るな……」


 後ろは後ろで中々愉快な事になってるが、無視して移動する。敷き詰められた色取り取りの花々に美しい彫刻やタイルの道、丁寧に丁寧を重ねて手入れされている庭園の一つ一つが地上には存在しない楽園の様な美しさをしている。


 カスが自分に相応しい庭園を、というコンセプトで作成しているらしいので見た目が良いのは当然なのだが。しっかり道の上を爆走していると、ジョック君が後ろから声をかけてくる。


「なあ、時枝。花畑を横断しないのか?」


「一見突っ切った方が早く見えますが、実はこの花畑、ダメージゾーンになっていてスリップダメージを喰らいます。1歩で大体HPの1割が削れる上に、越える為に高く飛ぼうとすると非アクティブモンスターの警戒トリガーを引くので素直に道を歩いた方が早いです」


「魔法の詠唱、発動、そしてポーションによるMPの回復も時間がかかるんですよ、ジョック様」


「そっか、回復の手間を考えると素直に道を走った方が早いんだ」


 そこがRTAの面白い所である。最短が決して最速ではない。様々なルートを構築し、チャートを作成する。だが遠回りに見える行動が実は最適解だったりするのだ。そういうことを計測して計算して比べて調べるという地味な作業もまたRTAの一部だ。


 決して全力疾走し続ける所だけがRTAという訳じゃない。その事前調査と準備と練習を含めてのRTAなのだ。だから本番ではガバらない筈なんだけどなぁ……。


「それはそれとしてこのまま道なりに進み、橋を渡ると中央島に到着します。ここからは5つの浮遊島に繋がっており、それぞれコンセプトの違う空中庭園となっています。この5つの空中庭園を攻略する事で中央のバリアが解除されるのですが……」


 中央島に到着したらバリアが見える。その向こう側には豪華な神殿の様な建築物もある。その中に2代目カスがいる。


「壁抜けするんだろ?」


「妾は何時でも大丈夫ですよ勇者様」


「あ、微妙に精神汚染残ってる」


 そう、壁抜けだ。武器を取り出して高負荷領域を作り出しながら話を続ける。


「そもそもここに来るまでに魔族側と人族側に大きな損失を起こさなくてはならないという前提があり、両陣営がある程度弱まる事で段階的に5つの浮遊島のロックが解除されて進めるようになります。簡単に言うとメインシナリオの進行とリンクしているという訳ですね」


 2代目カスの目的はこの世界を魔界含めてリセットし、自分の理想の世界を作る事だ。だが自分の手を汚すのが嫌なので他人に仕事を全部任せようとしている。


「話は移動の間に西脇から聞いてたけどよ、本当に回りくどいというかなんというか……自分でやった方が早かったんじゃないか?」


「それを含めての娯楽で御座るよ、吉田氏。2代目の神は老いないので御座る、勝手に争って勝手に疲弊するのを眺めてれば昼寝している間に全部終わる出来事なので御座る」


「その為に我々が信奉する宗教や神話が創作されたと考えると少々腹立たしいですがね。この地に生きる者として決して許せる事ではありません。ご主人様と作業的に処理予定ですが」


「精神汚染が」


 RTAだからね。ガチバトルとかを期待しているのなら大間違いなのである。まともな勝負にはならないだろう。最低限のギミックと強制技を受け流し、残りはずっと攻撃を叩き込み続けるフェイズになるだろう。


「……はい、サクッと壁抜け完了です。ここまでシナリオの9.9割をふっ飛ばして来ているので、内容が気になる方はインフェルノくらげさんのエタルカプレイ動画を見るのをお勧めします。字幕、ゆっくり茶番付きでずっと飽きずに見れる他シナリオやサブイベント回収、設定の説明などもしてくれるのでとても見やすい動画だと思ってます。というかこんなRTA見てる暇あったらそっち見た方が良いと思います」


「お前よりも優先して見なきゃならないもんは恐らくこの世にはないよ」


「インフェルノくらげ氏トレンド入りおめでとうで御座るよ」


「尊厳凌辱ウェポン、人権破壊融合、人はバグになれる、が並んでトレンド入りしてる世界滅んだ方が良いと思う。後インフェルノくらげさんに謝っておけ、な?」


 男子が俺に厳しい……厳しくない? まあ、良いか! それよりも大事なのはRTAだ。RTAを走る事がこの世界で一番重要な事だ。


 壁抜けが完了したので武器を回収して無限増殖で量産されたMPポーションを飲んで回復しつつ神殿に突撃する。これが本来のチャートだとMPポーションを増殖する必要はなかったのだが、戦闘タイム短縮の都合上飲む必要性が出てきた。その為西脇は今も会話しながらアイテムの無限増殖を続けてくれている。


「創神の神殿に到着です。我々はここをカスの家と呼んでいます。初代カスと2代目カスが順番に住んでいる場所なのでカスの家です」


「ヘイトスピーチ」


「御覧の通り、広く、大きく、美しく、空から光を呼び込んでキラキラと光るこの世界屈指の美しさを持つ神殿です。自分を称える為に自分で生み出したのですからナルシズム以外の何物でもありません。現在は平和ですが、敵対状態になるとここに天使型エネミーが溢れかえります」


 ちなみに天使たちもテイミング可能。テイミング可能モンスターとしては割と上位に強い。でもやはり、フィールドやダンジョンに出てくるボスタイプのエネミーがテイミング可能モンスターとしては最上級の強さをしている。テイミングビルドなら最終的にそういうのを揃えたい。


 メディンギラさん! ごっつぁんです!


 神殿の一番奥までやってくると、四角形の吹き抜け型の部屋にやってくる。空からは陽の光が差し込み、穏やかな暖かさに思わず眠気を覚えそうな場所だ。その一番奥には此方に背を向ける一人の女性の姿が見える。


 その背からは純白の翼を6つ生やし、金髪は腰を超えて床に届くほど伸び、僅かに数センチほど浮かび上がった状態で静止している。その姿を見てしまえば思わず神は実在するのだ、という事を信じてしまう程の美貌がその存在にはあった。


「あぁ……これはなんと、勇者ですね。ここまで来るとは驚きです」


「皆さん、あれが2代目カスです。良いのは見た目だけですよ。それ以外はカスです」


 喋る為に姫様の肩から降りて素早くブリンク技で2代目カスの前にまで移動する。表面上は優しそうな笑みを浮かべて俺達をカスが迎えてくれる。


「遥々このような所へ良く来ました勇者。本来であればここには誰も来れない筈なのですが……貴方……貴女? あなたの持つその並外れた冒険心と探究心は何をどう間違えたのかここまで来てしまったようですね」


「細かい所で責めてないこの神?」


「責めてるで御座るよ」


「微妙に反応に困ってるよね」


 だってカスだし……。


「ですが勇者よ、あなたのその健闘を称えましょう。そしてその無謀さに褒賞を与えましょう。さあ、あなたが求めるものを教えて?」



  >お金が欲しい

   名声が欲しい

   力が欲しい

   貴女が欲しい

   


 目の前に選択肢が表示される。これによってここに到達した褒章を選ぶ事が出来る。


「さあ、選びなさい」


「ここで選べるものはほぼ選択肢通りのものです。ただし、一番下の選択肢は戦力として加入するのではなく、分身がヒロインとして攻略可能となるだけです。自宅を購入済みならそこに住み込んでデートイベントが行えますが……まあ……カスなので……」


「カスなんだ……」


 見た目は良いんだよ、見た目は。でも味方としてのキャラデータがないのでテイミングバグも編成バグも使えない。そういう細かいバグ対策まで使ってプレイヤー側でデータを悪用出来ないように作られているキャラなのだ。まあ、真の邪悪だから仕方ないのだが。


「注意すべき点はこの選択肢を終わらせると、もう二度と空中庭園には戻って来れなくなることです。また天測所の老エルフが謎の急死しているので発見も出来なくなるという事です。何ででしょうね」


「か、カス……!」


 つまりこの2代目カスにとって、今のこの状況は予想外の状況なのだ。だからプレイヤーが神をゲームの舞台へと引きずり落とす事が出来ているのはこの時、この瞬間のみ。この時を逃すともう二度とトゥルーENDには到達できなくなってしまう。


「さあ、勇者。あなたの欲望を解き放って?」


「選ぶべき選択肢はこの中に存在しています」



   お金が欲しい

   名声が欲しい

   力が欲しい

   貴女が欲しい

  >


 そう、選ぶべき選択肢は隠れている。個人的にはF〇Ⅷを思い出す選択肢の隠し方だと思う。地味に懐かしい奴だ。今はもうTabを押して隠しボタンを探すとかやらないからなあ。ともあれ、これが選ぶべき選択肢だ。


   お金が欲しい

   名声が欲しい

   力が欲しい

   貴女が欲しい

  >お前の命


 親指で首を掻っ切ってからそれを下に向ける。


「お前の命を寄こせ」


 カスの解体始めるよー!

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る